澤村を救っているのが母校・中央大学だ。巨人軍には慶大閥に並ぶ伝統の「中大OBライン」がある。V9戦士で逆転満塁サヨナラ本塁打の末次利光を筆頭に、名スカウト伊藤芳明、完全試合男で中大監督の高橋善正、松井秀喜の専属教育担当だった香坂英典、阿部慎之助、亀井義行──。

 高橋は澤村の生涯の恩師であり、教え子が問題を起こすたびに球団に飛んで行って、幹部に頭を下げた。阿部は日本シリーズの試合中、牽制サインを平気で無視する後輩の態度に、あえて東京ドームの大観衆の前で「バカッ! ちゃんと見ろ」と頭を殴って反省を促した。このOB達の「愛のムチ」がなければ、澤村は無条件で楽天に放出されていた。

 澤村拓一と沢村栄治。二人に血縁関係はないが、澤村の背番号「15」は、伝説の大投手・沢村の永久欠番「14」を超える期待感で付与された運命の縁がある。沢村栄治はベーブ・ルースをキリキリ舞いさせた剛腕投手として終生、華々しく活躍したと記憶されている。

 事実は違う。沢村の剛腕は短命で、肩痛で横手投げに転向し最後は下手投げの制球難で苦しみ、トレード寸前で引退した悲劇の苦労人だった。だが苦境の中で3回もノーヒットノーランを達成した男だから「奇跡の人」の称号がある。

 翻って澤村の奇跡はあるか。怪力剛球、先発から中継ぎ、抑えを経て先発に再復帰、制球難、肩痛。澤村の野球人生が沢村を彷彿させる。だから原采配に注目したい。澤村の命運はベンチ次第なのだ。(文・吉 元晴)

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