“未病”の状態から、病気へ至る時間を少しでも先延ばしにできるかが、健康寿命の維持につながるが、これを実現する一つのキーワードが「補腎活血」だ。中医学では、陰陽五行説が基礎であり、そのなかの「腎」は、西洋医学の腎臓機能だけではなく、生殖、成長・発育、ホルモン分泌、免疫系など広い機能を併せ持つ“生命の源”であることを意味する。したがって、健康寿命を保つためには、加齢とともに衰える「腎」を補うことが重要なのだという。
もうひとつが『血の巡り』だ。「活血化おの意義と臨床応用」と題したシンポジウムでは、東京有明医療大学の川嶋朗教授、南京中医薬大学の談勇教授、富山大学大学院理工学研究部の横澤隆子特別研究員をシンポジストに迎え、西洋医、中医師、研究者というそれぞれの立場から「活血化お」の意義と臨床応用におけるエビデンス(科学的根拠)について意見を述べた。
お血(おけつ)という血流が滞った状態は老廃物がたまり、脳血管疾患や心臓血管疾患などの循環器系のトラブルやその原因ともなる生活習慣病につながるためだ。それらを予防するために重要なキーワードが「活血化お」だ。血行を改善して、全身の不具合を取り除くという考え方だ。
血管は、頭の先からつま先まで、全身に張り巡らされ、体で一番巨大な臓器といわれる。栄養分を送り、老廃物を回収するという重要な役割を果たすため、血液がドロドロであったり、ゴースト血管という血流が行き渡っていない血管がある状態は危険であり、血液の状態を良好にし、血液の循環を活性化することは何より重要だ。
お血は病気を呼び込む原因であり、病気はお血を生じる原因であるという表裏一体の関係にあるのだ。まさに“血液を制するもの、病気を制する”といっても過言ではない。
シンポジウムでコーディネーターを務めた陳志清先生は、現代医学において中医学の果たす役割がますます重要さを増し、医療を変えていく原動力になることに期待していると述べた。
西洋医学では、早期発見・早期治療の重要性が盛んに言われるが、これはあくまでも二次予防だ。一方、中医学は未病の段階で体を整えて、病気への道を断ち切る一次予防だ。これからは一次予防がトレンドとなる。膨らみ続けるわが国の医療費を削減するという点からも、今後一次予防はさらに注目されるだろう。
世界的に高齢化社会となった現代のなかで、日本はその先頭を走っている。
未病から病気へのルートを遮断し、QOL(生活の質)を保ちながら日常生活を送り、いかに健康寿命を延ばすかは、誰もが望むことだろう。そこに大きく貢献するのが中医学と漢方であることをよく認識して、有効に活用して、健康寿命を延ばしていきたい。(文・伊波達也)