4月に入り、全国各地の大学で入学式が開かれている。東京都新宿区にある早稲田大学戸山キャンパスに完成した「早稲田アリーナ」でも、1日から3日まで学部別、大学院の入学式を順次開催中。天川(あまかわ)眞琴さん(18)も希望を胸に先進理工学部・応用物理学科に入学した一人だ。天川さんは幼少時に「網膜芽細胞腫」という眼球の網膜に発生する悪性腫瘍の影響で左目を失明、小学2年生になったころに右目も光を失い、全盲となった。
一方で早稲田大には2006年に「障がい学生支援室」が設置されている。16年に障害者差別解消法が施行される10年前だ。同室設置後の正式な記録によれば、全盲の学生が入学したのは今回が初めて。天川さんはどのように受験勉強に取り組み乗り切ったのか、なぜ早稲田大を進学先に決めたのか、そして将来の目標などについて聞いてみた。
「小学5年生のときに私立のカトリック系小学校から筑波大学附属視覚特別支援学校(附属盲学校)に転校して、そのまま中学まで学びました。私は割と早い段階で失明したので、点字の習得がスムーズだったんだと思います」と振り返った。ハキハキと話す様子から聡明な印象を受ける。大変な努力をしたのでは――と聞くと、「努力というより、必要に迫られたから」とリアルな答えが返ってきた。6年生のころには教科書はもちろん、点訳されたさまざまな分野の本を読破するようになっていた。
「中学2年で相対性理論や宇宙をテーマにした本を読んで、常識と違った視点で世の中を考えられるということに興味を持ちました。それがきっかけで、大学で物理学を学ぼうと目標を立てたんです。このジャンルの本は自分で選びました」
物理学専攻で大学受験をめざす場合、盲学校の高等部ではカリキュラムの関係で難しいことがわかった。そこで高校受験の勉強をスタート、難関校で知られる都立戸山高校に見事合格した。同校は04年度、理数系、科学技術系の教育が充実している高校に対して文部科学省が指定する「スーパーサイエンスハイスクール」に都立高として初めて選ばれている。
戸山高入学に際し、母校である盲学校の職員も協力して教科書や授業のプリント、参考書まで点訳する手配をしてくれた。とはいえ、学校に全盲の生徒は天川さん一人だけ。クラスメートに比べるとどうしても勉強に制限があった。
「他の人ならよさそうな参考書をパッとほかで見て選んで学べるけど、私は学校購入したものを泥臭く繰り返し解くしかありませんでした」