DV加害者は、参加当初は、自分の言動が間違っているとは思わず、むしろA男さんのように自分の行為に自信を持っていることも多い。A男さんはDV加害者プログラムに参加してまだ間もないが、自分の責任感は自己中心的な考えだったと気づき、もう二度とB子さんにも子どもにも暴力をふるわないために、プログラムに参加して自分の行ったDVや虐待行為と向き合っている。A男さんとB子さんは現在別居中だが、今後同居に戻るか、離婚するのかはA男さんの変化次第と、B子さんは考えている。
海外では加害者更生プログラムへの参加を法的に規定し制度化している国がある(内閣府男女共同参画局のホームページによるとイギリス、ドイツ、韓国、台湾、アメリカなど)。日本ではDV加害者・虐待加害者を更生プログラムに参加させるための法的強制力や裁判所命令などはないので、専ら"妻命令"だけが、DV加害者更生プログラム参加の動機付けとなっているのが現状だ。つまり、日本の加害者対策はパートナーである被害者が担わなくてはならず、その負担はかなり大きい。
それでも、被害者からの「夫には加害者プログラムに通って変わってほしい」というニーズが多いことは、内閣府の「男女間における暴力に関する調査(平成29年)」でも明らかだ。実は、DV被害者の女性が暴力を振るう配偶者と別れたケースは12.8%しかないのだ。同調査では、70%以上の女性が別れる選択をしていない。別れない理由はさまざまあるのでここでは触れないが、DV被害に遭っていても、まだその相手と別れる決意ができていない場合、役所の相談を受けるのは心理的ハードルが高い。もし栗原心愛ちゃんの両親が住む地域の関係者の誰かに加害者プログラムの情報が届いていれば……と思うと胸が痛くなる。栗原勇一郎容疑者もA男さんやC男さんと同じように、ゆがんだ家族観から家族を支配していたのだろう。今となっては単なる仮定の話に過ぎないが、悔しくてならない。