彼が始めた「すべてのデスクの上にコンピューターを」は、実際にはiPhoneにまで行きついて、「すべての手のひらにコンピューターを」という世界を実現してしまったわけです。
このときのApple、正確に言うと2010年ごろまでジョブズがぎりぎりCEOとして働いていた時代のAppleは、革新的なテクノロジー企業だったと思います。
2001年 iPod
2003年 itunes
2006年 Apple TV
2007年 iPhone
2008年 MacBook Air
2010年 iPad
わずか10年ほどの間に私たちの生活を、まさに激変させたような画期的な新製品を次々と生み出しているからです。世の中にスマートフォンというデバイスを誕生させたことは、まさに世界中の人の暮らし方や感覚を変えたと言ってもよいでしょう。
■新しい製品を生み出していないApple
しかし、スティーブ・ジョブズが2011年に亡くなり、CEOがティム・クックに変わったあとに出した、まったく新しい製品は、2015年のApple Watchくらいです。大々的な発表イベントを行っても、ほとんどが旧製品のブラッシュアップにすぎない印象があります。
これには2つの見方があります。ひとつは、現在の技術での基本的なIT機器、デバイスは、ある程度出尽くしているのではないか……という見方。もうひとつは、スティーブ・ジョブズ以外に、そうしたビジョナリーな、画期的な新製品を創りだすための強烈なリーダーシップを持つ人間がAppleに居ない、という見方です。
私は、どちらもある程度正しいと思います。
Googleグラスが失敗したように、人間がからだのそばに置いて実用に耐えられるようなITデバイスは、いまのところiPhoneのようなスマートフォンで十分。
最終的にはIT機器はさらに進化し、一見どこに装着しているのか分からない方向に行くと思うけれども、いまのところ、そこに行きつくまでには解決しなければならない技術的な課題もあります。だから、現状では、ある意味こうした製品は出尽くしていると言っても過言ではない。