株式会社ディープビジョン研究所 代表取締役/ブランド戦略コンサルタント
長崎県五島列島出身。大学卒業後いくつかの広告制作会社を経て、アサツーディ・ケイにてコピーライター及びクリエイティブ・ディレクターとして活躍。朝日広告賞、日経広告賞グランプリ、日経金融広告賞最高賞、東京コピーライターズクラブ新人賞ほか数多くの受賞で評価を高め、2005年に独立。「本質からブランドを組み立てる」というアプローチで、全国の中小企業から大企業までのブランドづくりを行っている
Appleの新型iPhoneの売り上げが不振だ。1月29日のAppleの決算発表では、iPhoneの売り上げが前年同期比15%減という数字が発表された。Appleという企業はこれから、どのようになることが想像されるのか。希代のビジョナリーであったスティーブ・ジョブズを失ったことが、今後どのように影響してくるのか。
【「Apple独自のビジョンを定める時期が来ている」と主張する江上さんはこちら】
ビジョンやコンセプトなどに詳しく、『THE VISION――あの企業が世界で急成長を遂げる理由』の著者でもある、ブランド戦略コンサルタントの江上隆夫さんに寄稿してもらった。
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■ビジョンを持たないビジョナリーな企業 Apple
ここでは「ビジョン」という視点からGAFAの一角でもある、Appleのことを考えてみたいと思います。
Appleは、世界で初めて時価総額1兆ドルおよそ110兆円を超えた企業になりました。この2月の時点ではおよそ80億ドル、日本円で88兆円。マイクロソフトに次ぐ2位です。トヨタ自動車が17.4億ドルなので、ほぼ4.5倍以上の価値を持っているということになります。
この、とてもビジョナリーなイメージで、世界の最先端を行くブランドであるApple社には、明確なビジョンあるいはミッションのようなものが存在しません。試しにAppleのホームページで「vision」「Mission」ということばをサイト内サーチに掛けても、企業そのもののビジョンやミッションは出てこないのです。
欧米の企業は、こうした企業理念をとても大切にするので、そういう意味では、とても不思議な会社と言ってもいいでしょう。
■Appleはスティーブ・ジョブズのビジョン現実化のための会社
なぜ、ビジョンがないのか。
答えはシンプルです。スティーブ・ジョブズが居たからです。
言ってしまえば、Appleとは故スティーブ・ジョブズのイメージの内にあった、コンピューターが人々の生活を激変させる世界、つまり彼のビジョンを実現するために、その世界を構成するデバイスを、ひとつずつ製品として造り、販売する会社だったのです。少なくとも2010年頃までは。