●全国に点在する神武天皇を祭る神社
ところが、全国に目を転じてみると神武天皇その人自体を祭神として祭る神社は意外に少ない。
歴史を見れば、神武天皇が明確な名前を持って一般の人々の前に登場するのは明治以降なのだろうから、それも仕方ないのかもしれない。第二次世界大戦以前の内務省資料によれば、神武天皇を祭る神社が多かったのは、熊本、広島、岡山、福岡、宮崎、鹿児島の順とある。神武天皇が長く治めた歴史を持つ土地であることも由来するだろうが、これらの県が明治時代の廃仏運動で新たに神社が多く作られた土地であることも注目に値する。
もちろん他の神道の神さまたちの多くも、明治以降に新たな名前を与えられたのだけれども。
神武天皇を祭神とするお宮として有名どころをピックアップしてみよう。
少ないながらも、たどれば歴史の端緒が見える場所ばかりで、即位の地の橿原神宮、東征前の居留の地の宮崎神宮、神武天皇の皇子・神八井耳命(カンヤイミミノミコト)が創建した奈良・多坐弥志理都比古(オオニマスミシリツヒコ)神社(多神社)、東征時に滞在したとされる広島・安芸の「多家神社」、岡山・「神島神社」など神武東征地図を片手に神社をたどっていくこともできる。
関東に目を転じると、埼玉県秩父の寳登山(ほどさん)神社、池袋の御嶽神社などに、ヤマトタケルの東征話とあわせて祭られている。
興ざめな話をすれば、崩御の年齢が127歳だったとされていることなどもあり、昨今の研究家の間では神武天皇の実在性を疑問視する説が主流となりつつある。中には10代天皇の崇神と神武天皇が同一人物であるとも言われているが、神武天皇のお墓と治定されている陵はもちろん存在するし、古くから神武天皇を祭っている社も各地にある。
研究者が正しいのか、神武天皇の実在を信じるべきなのかは個々人にお任せするが、祖先を大事に思う気持ちだけは、今も日本書紀が書かれた時代も少しも変わらないのではないかと、建国記念の日を前に強く思うのである。