すると、金田はベンチの前でボールを叩きつけて悔しがった。ネット裏の記者席でも「あの態度は良くないな」の声が出るほどだった。後に金田は親しい番記者に「あのときは“しまった"と思ったんだが、もう手遅れだった。許してくれよ」と打ち明けている。

 5回、好投を続けていた島谷が先頭の横山昌弘に三塁打を浴びると、金田はベンチの中で「オレに行かせてくれ!」と訴えた。立場上露骨な交代はできない宇野監督も、内心「しめた」と思ったのか、ついにリリーフ・金田を告げた。

 ピンチを無失点で切り抜けた金田は8回に1点を許したものの、2対1で投げきり、20勝に到達。「実に長かった。10年間だものな。しかし、とうとうオレはやったんだ」と喜びをあらわにした。だが、「後味の悪い大記録」(朝日新聞)の見出しで報道されるなど、引き立て役になった島谷に同情する声も多かった。

 金田は64年まで14年連続20勝を記録したが、島谷は実働7年間で1勝も挙げられないまま引退している。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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