私が、引っかかったのは、涼太さんのあまりに"いい人"過ぎる対応です。セックスレスを許し、浮気をした琴美さんを責めてもおかしくない立場なのにそれも許しています。涼太さんは底抜けに優しいのです。二人で話し合ったという話も、結局のところ、琴美さんの気持ちを吐露して、涼太さんが聞いたということです。つまり、厳密には、話し合ったというより、涼太さんが琴美さんの気持ちを聴いた、ということです。
お話を聞いていくうちにわかってきたことは、琴美さんの心の中にあった葛藤でした。
琴美さんはどちらかというと、ぐいぐい引っ張るアクティブな方です。お付き合いの経緯も、琴美さんが自分の好きなバンドのライブやイベントなど積極的にデートに誘い続けたのだそうです。琴美さんは、自分が好きなことに付き合ってくれるのが嬉しくて、涼太さんは誘われるのが嬉しくて、盛り上がっていたようです。当時はそれ以上考えていなかったということですが、今冷静に振り返ってみると、涼太さんから何かに誘うということは無かったのです。それは、例えば、デート中に何を食べるか、ということまで、涼太さんが何かイニシアチブをとったことは、記憶にないそうです。
涼太さんは、琴美さんが選ぶものなんでも、「いいよ」とか、「こんなことにも興味があってすごいね」などと褒めてくれます。琴美さんは、涼太さんのそういう優しいところに魅かれてお付き合いをし、結婚したのです。
そんな話をしていて琴美さんが気づいたのは、
「私、一人芝居みたい」
ということでした。
全てのことが肯定される関係は、心地よいし、喧嘩にもならないのですが、「2人で生きている感じがしない」ということに気づいたのです。
それでまた思い出しました。ある時、
「いつも、私のしたいことばかりしているけど、涼太君がしたいことはないの?」
と聞いたことがあったのです。しかし、涼太さんは
「うーん。僕は積極的に何かしたいってことはあまりないけど、琴美が連れてってくれるところに一緒に行くのは楽しいし、琴美が幸せそうにしているのを見るのが幸せなんだ」
と答えました。