10年に盗塁王に輝き、この日まで通算342盗塁を記録した“足のスペシャリスト”は、当然のように引退試合でも盗塁を成功させようと心に期していた。

 3対2の3回、先頭打者として四球で出塁した本多は、スタンドの「走れ!走れ!本多!」の大合唱を背に、アンツーカーから両足が出る大きなリードを取り、見せ場をつくる。そして、けん制球の直後、次打者・上林誠知の初球にスタートを切った。

「13年間であんなにいいスタートを切ったことないんじゃないかな」と本人も自画自賛するほどの会心のスタート。余裕を持って二塁に到達し、343個目の盗塁達成と思われた。

 ところが、斉藤大将のボールは上林に背中にドスン。死球となったため、現役最後の盗塁は幻と消えてしまった……。

 この日は二塁打、三塁打1本ずつの4打数2安打と打棒も振るい、有終の美を飾ったものの、結局、盗塁のチャンスはこの1回だけ。

「正直、盗塁1は付けたかった。“よしっ!”と思ったら、当たってた。避けろよと思いましたけど(苦笑)」と残念がりながらも、「“2球目までに(スタートを)切るから待って”と(上林に)言っていて、スタートを切れたことが良かった」と、結果はどうあれ、有言実行を果たせたことに満足そうだった。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
大型セールAmazonプライム感謝祭は10/19(土)・20(日)開催!先行セール、目玉商品をご紹介