シンプルな言葉。音数の少ない楽器。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの演奏はスペースがあるからこそ、言葉がリスナーにしっかりと伝わる。3年半ぶりの新作『ホームタウン』がまさしくそれ。作詞は主にヴォーカルとギターを担当する後藤正文が担当し、その歌詞は文学的と言われている。たとえば「はじまりの季節」がまさしくそう。アパートのカーテンの布目をこじ開けて燃える朝焼け。忍び込む今日。赤い笑い声。歌詞の主人公が見ている風景を描くことで心の様子を伝える。
「自分自身は文学性を意識して歌詞を書いてきたわけではありません。いつのまにか今のような歌詞のテイストになっていました。でも、本はもちろん好きです。村上春樹の『蛍』とか、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』とか。『蛍』は『ノルウェイの森』の下敷きになった短編です。主人公の“僕”と潔癖症の同居人のことや、死んだ友人がかつて交際していた恋人とのが描かれていきます。『私を離さないで』は、主人公のキャシーが施設で育った子どものころをはじめかつての自分の記憶をたぐりよせていく。僕が好んで読む小説に共通するのは、人間の心の底に澱のように沈殿している悲しみに触れていることだと思います」
読者として出合う文学が、作者として生むアジカンの世界には流れている。
「世の中、どんなに楽しいことでも永遠ではないですよね。僕たちはどこかに帰って行かなくてはいけません。そんな哀しさを感じられる作品が、僕は好き」
同じような人間の哀しさは、ビートルズの作品からも感じられる。
「ビートルズの中期、『ラバーソウル』や『マジカル・ミステリー・ツアー』あたりです。『イン・マイ・ライフ』や『フール・オン・ザ・ヒル』を聴くと、自分の心にある、なんといったらいいのか、空洞のようなものをわかってくれる気がしますよね。そこに引き付けられてしまいます。こうした文学や音楽からの影響は、『ホームタウン』に収められているナンバー、『ボーイズ&ガールズ』や『生者のマーチ』にもにじんでいます」
歌詞はメロディができた後に一気に書くという。
「たとえばツアーで訪れた街散歩をしているときに、そこで見た風景や浮かんだ言葉が脳のどこかに格納されていて、レコーディング前に一気に歌詞にします。インプットされ体の中にたまっているものを放出するからなのか。作詞は僕にとってとても刺激的な楽しい作業ですね」