そんな後藤が書く歌詞と、バンドの演奏の足並みがキャリアを重ねるごとにそろってきた。
「アジカンはもともと楽器の少ないバンドですけれど、アルバムをつくるごとに音と音の間にすき間をつくれるようになってきました」
音にすき間があるからこそ、後藤の書く言葉はリスナーに届きやすくなってきた。
「僕はずっと叩き過ぎていました」
そう打ち明けるのは、ドラマーの伊地知潔だ。
「20代のころは特にすき間を埋めたくてしかたがなかったんです。それは、たぶん演奏に自信がなかったから。スネアドラムやバスドラムの一打に自信が持てないと、すぐ次を打ちたくなるんですよ。でも、一打に確信があれば、すき間がつくれます。実は、今回のアルバムでようやく音を埋めたい欲求から解放されました。『ボーイズ&ガールズ』の導入部をシンプルに、これまでの半分くらいの音数で演奏したときに、体験したことのない気持ちよさが感じられたんです。ドラマーとして1つ上のステージに行くことができた気がしています。今、このアルバムを友達に聴かせたくてしかたがありません」
伊地知のそんなシンプルな演奏の快楽を後藤も共有できた。
「音数少なく。でも、重く。重低音をしっかり出していくことを、今回は特にメンバーみんなで話し合って大切にしてレコーディングしました。ドラムの音も、間引いて間引いて、ドン! パーン! ドン! パーン! くらいになっています。ギターもベースもですけれど、たぶんみんな、間が怖かった。弾いていないと不安になるんです。仕事をしていないような気になってきて。それはアレンジャーも言えることかもしれません。日本のポップミュージックには、ストリングスが多い気がします。もしかしたら、間を埋めたくて、楽器が増えていくんじゃないでしょうか」
こうしてレコーディングされた『ホームタウン』は今までのアジカン以上にむき出しのサウンドに仕上がった。
「音数が少なければ、もし一音一音が弱いと、それがリスナーに見破られてしまいます。今回はかなり、自分たちをさらけ出していると思います。歌詞の言葉もシンプルになればなるほど、僕らしさ、このバンドらしさが際立ってきました」
(神舘和典)