さらに、日本の企業では、優秀な若手でも面白い仕事をやらせてもらうまでに時間がかかる。出世も遅い。経営者にも魅力のある人がほとんどいない。

 こんな状況では、経団連会長会社の日立製作所が、就活ルール廃止を受けて早めにリクルートを始めても、トップ集団の学生たちが、外資から戻ってくるわけではない。

 本当に優秀な人材が欲しいなら、経団連企業は、まず賃金を上げたり、休暇を増やしたりして労働条件を上げ、また、昇進のスピードを速めて、真に能力のある若者がやりがいを感じるポストを用意すべきだ。

 しかし、それは、彼らにとって実は最も難しいことだ。なぜなら、高い給料を払っても儲かるビジネスモデルに変える能力のある経営者が日本にはいない。今の経営者をクビにして、能力がある社長を海外から連れてこなければ、労働条件を上げても儲かるビジネスへの転換はできない。

 もうお分かりの通り、これは、人手不足解決の議論と全く同じ課題だ。

 日本の労働者の幸せのことを考えるとき、「今一番必要なのは、労働者を海外から連れてくることではなく、外国の優秀な経営者を連れてくることではないか?」。

 安倍総理は、経団連の経営者たちに、そう問いかけてみてはどうだろうか。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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