マーケティングの「常識」とされているブランディング、差別化、ターゲティングというのは、特に成熟市場で複数の競合が戦っているような場合、実はあまり正しくなくて、消費者に商品が広く到達しなければ(リーチがなければ)売れない、というのが、『ブランディングの科学』のひとつの結論なのです。
シャープ教授の理論の中で、特にマーケティングに携わるすべての人に役立つのが、こうした「リーチ」に関する部分でしょうね。
たとえば、いまSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)マーケティングがどうこうとよく言われていますが、どうしてもSNSでは届く人が限定されてきます。なので、SNSマーケだけをやることには僕はまったく反対で、できるだけ広くやらなければいけないと考えています。なぜなら「新規」のお客様を獲得するために、広いリーチがあったほうがいいし、SNSで到達できる範囲のお客様ですと大きな売上になりにくいから、です。
シャープ教授がこの本の中で繰り返し強調しているように、たくさん売るためにはマス・マーケティング(すべての消費者を対象に行う大量生産・大量販売・大量プロモーション)が不可欠であり、やはり有効なのです。
「ロイヤルティ・プログラムは効かない」というのも、リーチに関わる結論でしょう。僕もCRM(カスタマー・リレーションシップ・マーケティング)は幻想だと以前から主張しています。顧客データをたくさん集めて、それに合わせて、最適なメッセージを最適なタイミングで最適なターゲットに出したら効くというのが、いまのデータ・マーケティングの主流、いわゆるCRMですが、じつは継続的に経営に大きな影響を与えるレベルで成功しているCRMの事例は、CRMと言う言葉が出てからこれだけ長い年月が経ったのにも関わらず、私の知る限りありません。日本に限らず世界中で。
CRMの代表例といえば、昔からデパートですね。ポイントとかがあって、お客様がいつ何を買ったか全部わかっていました。それに合わせてDMとかも出してましたよね。けれどもデパートの売上はご承知のとおり、右肩下がりです。