僕の場合、そうしたターゲット・マーケティングやロイヤルティ・プログラムがあまり効かないことは、シャープ教授の本を読むずっと前から実感していました。その意味では、これまで自分が感じていたマーケティングを科学的に証明してくれたので、いわば心強い応援団の登場という印象です。

 どんな「ブランド」でも、既存ユーザーを大事にしなければいけないけれども、じつは広くリーチしてどんどん新規顧客を取り込むことのほうがずっと重要なわけです。

 たとえばマクドナルドでもそうだったのですが、外食産業はとりわけロイヤルティ(愛着)が低い。消費者は毎日、衝動的に入るお店を決めるわけです。外出していて、「お腹すいた、どうしよう?」と思って、目についた近くの飲食店に入るケースがほとんど。つまり、ロイヤルティではなくインパルス(衝動)ですね。逆に言うと、目につかないお店には入らないわけです。

 要は、アベイラビリティ(入手しやすさ)が、じつは消費者の行動の大勢を決めているということです。これは僕がP&Gやヘンケル時代に売っていた消費財、たとえばシャンプーでも同じで、実は売れるか売れないかは「流通」によって大きな影響があります。当たり前といえば当たり前ですが、たくさんのお店で大量に並べられている商品のほうが、よく売れるというわけです。

 どの家庭でも使うような商品に、ターゲットをしぼったマーケティングは必要なのかというと 答えはノーで、結局いちばん効果的なのは、店頭にたくさん並んでいること、そして店頭で目立っていることなんです。つまり広くアベイラブル、入手しやすいことが最も重要なのです。

 要するに、消費者がどのモノ・サービスを選ぶかの意思決定は、ブランドが大きければ大きいほどプラスに働くという「現実」が明確に存在しているといことです。そうした「正しいこと」を『ブランディングの科学』という本は、さまざまな事例を紹介しながら豊富なデータを使ってとても説得的に語っています。

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