小型機OriHime(オリヒメ)を手に持ち、プレゼンテーションするオリィ研究所の吉藤健太朗さん(撮影/小山幸佑)
小型機OriHime(オリヒメ)を手に持ち、プレゼンテーションするオリィ研究所の吉藤健太朗さん(撮影/小山幸佑)
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体長約120センチのOriHime-D(オリヒメ・ディー)。障がい者がパイロットとして遠隔操作している。ロボットの胸にはパイロットのプロフィルを提示(撮影/小山幸佑)
体長約120センチのOriHime-D(オリヒメ・ディー)。障がい者がパイロットとして遠隔操作している。ロボットの胸にはパイロットのプロフィルを提示(撮影/小山幸佑)
トレイの上に飲み物を乗せて持ってきてくれる(撮影/小山幸佑)
トレイの上に飲み物を乗せて持ってきてくれる(撮影/小山幸佑)
多数の報道陣に囲まれるOriHime-D(オリヒメ・ディー)。慣れない取材に背中が緊張気味だ(撮影/小山幸佑)
多数の報道陣に囲まれるOriHime-D(オリヒメ・ディー)。慣れない取材に背中が緊張気味だ(撮影/小山幸佑)
カフェの壁にもパイロットたちのプロフィルが掲示されている(撮影/小山幸佑)
カフェの壁にもパイロットたちのプロフィルが掲示されている(撮影/小山幸佑)

 遠隔操作で動くロボットが店員として働く「カフェDAWN ver.β(ドーン·バージョンベータ)」が、11月26日~12月7日(12月1、2日は休み)の期間限定で東京都港区の日本財団ビルにオープンしている。

【写真】ロボットがコーヒーを持ってきてくれた!

「こんにちはー。今日は楽しんでいってください!」
「いらっしゃいませー。分身ロボットカフェにようこそ!」

 明るい声で接客するのは体長約120センチの白いロボット「OriHime-D(オリヒメ·ディー)」。ALS(筋萎縮性側索硬化症)や脊椎損傷など重い障がいによって外出が困難な人たちが自宅などから遠隔操作している、“分身ロボット”だ。

 このロボットには、AI(人工知能)は搭載されていない。動作や音声はすべて人間の操作による。だから、どこかぬくもりを感じることができる。

 ロボット開発ベンチャー「オリィ研究所」代表の吉藤健太朗さん(30)が開発。吉藤さんは小学校5年生から中学2年生までの3年半、体調がすぐれず不登校を経験した。自分の代わりに学校に通ってくれる分身がいたら、教室で友達と笑いながら同じ時間を過ごせたかもしれない――。孤独が、分身ロボット開発の原点だった。

 工業高校、高等専門学校で人工知能の基礎を学び、早稲田大学創造理工学部在学中に最初の小型ロボット「OriHime(オリヒメ)」を完成させた。体長約20センチのかわいらしいボディ。カメラ、スピーカー、マイクを内蔵、専用アプリを使って遠隔操作することで、まるで本人がそこにいるかのように人と会話ができる。身体が不自由でも、距離が離れていても、想いを伝えることができる。誰かとつながっていられる。「孤独を解消する」ロボットの発明だ。

■心が自由ならどこへでも行けるし、なんでもできる

 もう一つ、吉藤さんを突き動かしたのが、親友であり元秘書の番田雄太さんとの出会いだった。4歳のときに交通事故で頸髄損傷を負い、20年以上岩手県盛岡市の病院で寝たきりの生活を送っていた番田さん。首から上しか動かせず、話すこともできなかったが、顎でパソコンを操作する技術を習得し、インターネットで分身ロボットの研究を続ける吉藤さんを見つけた。やがてSNSで連絡を取り合い、2014年からは吉藤さんの秘書として、盛岡の病院にいながらOriHime(オリヒメ)を使ってほぼ毎日東京のオフィスに“出勤”した。

「実際に使っている立場でOriHime(オリヒメ)の改善点を指摘してくれたし、講演活動で彼の分身ロボットと一緒に世界中を飛び回りました。一緒に仕事をするうちにやっぱり直接会いたいと、番田は半年に一度はストレッチャーで盛岡から東京まで遊びに来てくれました」(吉藤さん)

 ある日、吉藤さんは「秘書なんだから肩をもんだりコーヒー淹れたりしてくれよ」と番田さん(の分身ロボット)に冗談を言った。番田さんも、社会で働きたいという想いが強く、「一緒にカフェをやりたいね」と約束した。分身ロボットが働くカフェをつくることで、世界中の人たちがもっと働きやすくなる社会を実現したい――。それが、遠隔操作による会話はもちろん、飲み物などを運ぶこともできる分身ロボットOriHime-D(オリヒメ·ディー)開発のきっかけだった。

 そんな最中の17年9月、番田さんは亡くなった。28歳の若さだった。同志の死にショックを受け、一時は「OriHime-D(オリヒメ·ディー)が接客するカフェづくり」のモチベーションを失いかけていた吉藤さんだったが、番田さんの残した言葉がもう一度彼を奮い立たせた。

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