「心が自由ならどこへでも行けるし、なんでもできる」

 障がい者就労の環境改善をめざす「はたらくNIPPON!計画」プロジェクトを展開している日本財団、バーチャルリアリティーなどの技術を使った「アバタービジョン」の事業化を進めるANAホールディングスと協力し、番田さんと約束したカフェが実現した。まずは、10日間の試験的なオープン。20年には常設店舗の開業を計画している。

■実際に分身ロボットに接客されてみた

 今回のカフェで働くOriHime-D(オリヒメ·ディー)は3体。日本各地に住む10人の「パイロット」が遠隔操作していて、パイロットには時給1000円が支払われる。

 実際に、筆者もカフェのサービスを体験してみた。

「初日の今日は移動したり、相槌を打ったりするだけ。最小限の機能にとどめておき、今後パイロットの皆さんに意見を聞いたり、カフェにいらっしゃったお客様にアンケートを取って、必要な機能を付け加えていきます」と吉藤さんが言うとおり、ロボットは磁気テープの上を移動して飲み物を持って来たり、手や首の動きでしぐさをつくるだけ。オーダーを書き留めることも、カップを持ってテーブルに置くこともできない。朝からたくさんの方を接客しているということで、筆者が入店した夕方にはもうクタクタというか、止まるべきところで止まれなかったりするなど、かなりお疲れの様子だった。

 だが、会話が楽しい。スピーカーから聞こえてくるのは、操作する人の肉声そのものだ。

「いらっしゃいませー。コーヒーをお持ちしました。お手数ですが、トレイからお取りください」と接客してくれたのは、村井左依子さん。身体症状症(身体表現性障害)のため外出が困難で、埼玉県の自宅で操作している。

「もともと人と接するのが好きだったから、家で人と接する仕事ができたらと思って今回のプロジェクトに参加しています。実際に働いてみて、体は埼玉にいるのに、お客さんや一緒に働く仲間との距離がすごく近く感じられて楽しかった」(村井さん)

 読書好きの彼女は、最近読んだ本をおすすめしてくれたり、少しでも元気になっていつか世界一周旅行に出かけたいと話してくれた。

 会話に合わせてロボットの目が光る。その光の強弱が、意思を感じさせる。最初は能面のようにしか見えなかった顔が、どんどん愛らしく見えてくる。いつしか、ロボットではなく、村井左依子さんその人と自然に話しているように感じていた。

 小型のOriHime(オリヒメ)の姿で接客してくれたのは、愛知県在住の藤田美佳子さん。

「銀行員として働いていましたが、その後保育士になったり、子どもが生まれてからサーフィンに挑戦したり。チャレンジすることが大好きで、病気になったからとあきらめたくない」と言って、手を顔に当てた。「ちょっと照れた」というしぐさだ。ALSで手が不自由になっているが、マウスを使ってロボットを動かし、感情を表している。ぱたぱたと顔をあおいで「あっちぃあっちぃ」、褒められると両手を顔に当てて「恥ずかしい」。彼女の動きは見れば見るほどかわいらしく、惹きこまれる。

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