「僕は(肩を痛めた)2011年で時間が止まっている」と話していた由規の時計が再び動き始めたのは、7月9日の中日戦。およそ5年ぶりに上がる神宮のマウンドでは白星を手にすることはできなかったが、7月24日のナゴヤドームで再び中日と対戦すると、5回1/3を2失点に抑えて1786日ぶりの勝利を挙げた。8月4日の広島戦では2勝目を挙げ、1797日ぶりに神宮のお立ち台にも上がった。
この年は5試合の登板に終わったものの、由規にとっては大きな意味のある5試合だった。2勝3敗、防御率4.56という成績がルーキーイヤーのそれと酷似していたため「ある意味、またここからスタートなのかな」と、完全復活に向けて思いをはせた。
翌2017年は登板間隔を空けながら10試合に投げ、3勝5敗、防御率4.31。そして今年、小川SDが4年ぶりに監督として復帰すると、由規は2011年以来の開幕ローテーション入りを果たす。4月22日のDeNA戦では7回途中までわずか1安打、無失点に抑えて今季初勝利。由規が肩を痛めた2011年も監督として指揮を執っていた小川監督は「素晴らしいの一言。肩を壊す前は球威で押すスタイルだったので、ああいうスマートな投球は初めて見た」と賛辞を惜しまなかった。
しかし、これが由規にとってヤクルトのユニフォームで挙げた最後の白星になる。6月2日に仙台で行われた楽天との交流戦に先発したものの、右肩の違和感を訴えて降板。その後は肩の状態が上がらず、ファームの試合でもマウンドに上がることのないまま、10月2日に戦力外通告を受けた。それでも由規は現役を諦めることはできず、球団から引退後のポストを用意されながらも、首をタテには振らずに退団を決意した。
由規の獲得にあたって、自身も現役時代はヤクルトで活躍した楽天の石井一久GMは「しっかり、リハビリのステップを踏めば来年後半には戦力になってくれると思っています」と話した。これで2度目の育成契約、2度目の3ケタの背番号となる由規だが、座右の銘のとおり必ずまた起き上がってくるはずだ。かつては交流戦で3年連続して田中将大(現ヤンキース)と投げ合ったこともある生まれ故郷を舞台に、今度は楽天のユニフォームで躍動する姿を楽しみにしたい。(文・菊田康彦)
●プロフィール
菊田康彦
1966年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身。2004~08年『スカパーMLBライブ』、16~17年『スポナビライブMLB』出演。プロ野球は10年からヤクルトの取材を続けている。