すったもんだした理由の一つは、忠則さんにとって「そんなの解決にならない」という信念でした。しかし、順子さんに聞いてみると、それでいい、と言います。なので、私は
「順子さんは、こういう風に対応してほしいと言っていますが、それを信じますか?」
とお聞きしました。忠則さんは、
「それは分かりますが、それでは根本的な問題が解決しないですから」
とおっしゃいます。私は、順子さんにお聞きしました。
「忠則さんはこうおっしゃっていますが、順子さんにとって問題は何ですか?」
順子さんは、はっきりおっしゃいました。
「夫が話を聞いてくれないことです。別に私の言っていること全部同意して欲しいとか、言う通りにして欲しいとかじゃなくて、順子はそう思っているんだ、ってわかって欲しいだけなんです」
「問題は分かりましたか?」と忠則さんにお聞きしました。忠則さんは、半信半疑のようではありましたが、
「わかりました。やってみます」
とおっしゃいました。次のセッションで、
「夫が、今までも優しくしてくれていたんだな、って感じることができるようになりました」
と順子さんはおっしゃって、一筋涙が流れました。
忠則さんは、こう言いました。
「私は理系なので、どうしても原因を追究して解決したくなってしまうんですけど、前回言われた、『問題は話の内容ではなく話を聞いてもらえないこと』というのを思い出して、頑張りました。いまだに、私的にはしっくりはしていませんが、妻がこれでいいというなら、受け入れざるを得ませんね」
それは、上で述べた適切な方向の努力です。そうすることで、不思議なことに「今までも」優しくしてくれていた、と順子さんが感じるようになったのです。つまり、量的には努力してくれていたことに気付いたのです。
時には、喧嘩したり、うまくいかない状況に陥ることがあっても、忠則さん順子さん夫婦のように、より相手を理解する方向で2人が幸せにやっていける道を見つける試行錯誤をしていけるのが、私は、いい夫婦だと思います。(文/西澤寿樹)
※事例は事実をもとに再構成しています