CDを出す女優は多い。ドラマに出演するミュージシャンも多い。多くの場合、一方が本業で、もう一方が副業だと明確にわかる。しかし原田知世は、シンガーとしても女優としても、コンスタントにクオリティの高い仕事を続ける稀有なアーティストだ。
「デビューしたころは、女優が主だったと思います。歌うのは自分が出演する映画やドラマの主題歌がほとんどでしたから。でも20代半ばに鈴木慶一さんと出会って、音楽もしっかりやっていきたいと思うようになりました。それでようやく5年前くらいからかな。音楽と女優、2つの仕事を自然に行き来できるようになった気がしています。ドラマ『紙の月』からアルバム『noon moon』のころです」
2018年はNHK連続テレビ小説『半分、青い。』に出演。そして、誕生日の11月28日にアルバム『L’Heure Blue(ルール・ブルー)』をリリースする。
「ルール・ブルーはフランス語で、日の入り前と日の出前の、空が濃いブルーに染まる神秘的な時間帯のことです。人って、年齢を重ねると、時がどんどん加速しているように感じますよね。でも、時は目には見えませんが、空の色が刻々と変化するルール・ブルーの時間帯は時の流れをはっきりと知ることができます。一瞬一瞬を私はしっかりと見つめて生きたい。そんな思いを込めて、アルバムタイトルにしました」
アルバムでは2曲、歌詞を書いた。1曲目の「Hello」では、空、海、光……が幻想的に描かれる。時を泳ぐ主人公の様子が、透き通るような声で歌われる。
「音楽プロデューサーの伊藤ゴローさんからメロディをいただいたときに、海の底から見上げた空の情景を思い出してつづっていきました」
原田がスキューバダイビングのライセンスを取ったのは20代の初め。映画『彼女が水着にきかえたら』のロケのときだった。
「共演の織田裕二さん、伊藤かずえさん、竹内力さんと、沖縄の伊江島で民宿に合宿しながら講習を受けました。海中では言葉は発せられないので、水中メガネのガラス越しに目で会話を交わします。日常生活ではありえないくらい、おたがいの目を見つめ合う。恋人同士だったらどんなにロマンティックだろう。そんなことをみんなで話しました(笑)。あのときの記憶をたぐり寄せて書いた歌詞が『Hello』です。私の詞はいつも情景を思い浮かべてつづっていきます。自分が主人公になったイメージで、風景、音、香りを空想して言葉にします」