私は2006年に、中国のSL撮影を通じて知り合った“鉄っちゃん仲間”と「火車撮影家集団」を結成しました。写真展で作品を発表することを目的としており、参加者も20代から70代までと幅広く、いつ入り、いつ抜けても構わない自由な集まりです。「撮り鉄」の中には「◯◯さん一派」といった派閥があるようですが、ここにはそのような変な選別もありません。

 私がこの活動を始めようと思ったのは、撮影仲間からすごい機材で撮影した2Lサイズの写真を見せてもらっていたときのこと。「そのプリントは、高価なカメラにかけた銭に見合う代物じゃない。写真展でもやったほうがいい!」と思ったからです。

 自分が撮影した写真をインターネットに載せたり、SNSにアップしたりすれば、「すてきですね」とお褒めのコメントがついたり、「いいね」をもらったりするでしょう。

 でも、手間とお金をかけてギャラリーに展示する過程は、自分に気づく作業でもあります。何人かの写真を並べることが、お互いの気づきにもつながります。これはネット上では得られない経験です。

「会場を借り、写真を大きくプリントして額装するのってお金がかかりますね」と言われたこともありますが、70万円ものカメラを買っているくせに、何を言っているんだと思います(笑)。私も含めて人は馬鹿ですから、身銭を切ってやらないことには気づけないこともたくさんあるんです。

 私にとって究極のいい写真とは、「人の記憶に残る」もの。そういう写真を撮るには、失敗を重ねようと、自分なりのフィールドを持ち続けることが不可欠だと思うのです。

 私は最近、オリンパスのOM-D E-M1 MarkIIに搭載されている「ライブコンポジット」機能を使った鉄道写真に取り組んでいます。通常のバルブ撮影では露光が長すぎて全体が明るくなりすぎてしまうような場合でも、明るく変化した部分のみが合成される機能です。 

 初めてこのカメラを手にしたときは不要な機能だと思っていました。ところが、雨の日に自宅にいたとき、ふと思いついて窓についた水滴と雑木林を「ライブコンポジット」で撮影してみたところ、雑木林は暗いままで、水滴が雹(ひょう)のように輝く、幻想的な写真が撮れました。このとき、「雨は雨で面白い写真が撮れる。発想の切り替えが大事だ」ということに気づかされました。

 私はこのカメラを手に、近くの沿線で写真を撮ってみることにしました。写真は、下高井戸で撮影した東急世田谷線です。ある雨の日の夕方に絞りをf11にしてシャッタースピード1/2秒を重ねてみたところ、周囲は暗いままで、光の軌跡だけが浮かび上がりました。 デジタルカメラのすごいところは、モニターで露光の進捗状況を確認できるところ。まさに進化したデジタルカメラの恩恵によって撮影できた一枚なのです。

「ライブコンポジット」による撮影に取り組むようになり、私は中学生のころの自分を思い出しました。バルブ撮影を覚えたときで、絞りと露光時間をどれくらいにすれば、どんな写真が撮れるのか、いろいろ試したものです。また、フィルムをタンク現像したときに、理想の仕上がりを予想しながら現像時間を微調整する感覚にも似ています。いずれもプリントするまでドキドキわくわくしたものです。

 最近、深夜0時まで飲んでいても、朝5時に自然に目が覚めて撮影に行っています。行き先は近場の路線ばかりですが、中学生のころ、撮影を楽しんでいた時期に戻っているような気がするんです。

 イベントでなくても、高価な機材でなくても、工夫次第で表現の幅はいくらでも広げられるものだということに、改めて気づかされたのです。

(文/吉川明子)

アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』から抜粋

暮らしとモノ班 for promotion
ニューバランスのスポーツウェアがAmazonセールで30%OFF!運動時にも普段にも役立つ機能性ウェアは何枚でも欲しい♪