そんな松尾の歌詞にギターサウンドを乗せるのは28歳の亀本。2人は長野県松川町にある県立松川高校の後輩と先輩。かつてはバンド編成だったが、ドラムスとベースが辞め、松尾がロックをやるために東京へ出る際、当時名古屋の大学に通っていた亀本に声をかけた。

「カメ(亀本)の魅力は、私が書くメロディや言葉をギターで色鮮やかに、豊かにしてくれることです。しかも、説明する必要はありません。素材を渡すだけで、サウンドで世界を広げてしまう。世界観をくみ取る能力が抜群。だから東京に来るときに彼を誘ったし、今も2人でやっているんだと思います」

 亀本がギターを始めたのは17歳。けっして早くはない。しかし、めきめきと腕を上げた。

「10代のころ、僕は同世代の友達と同じようにJポップのヒットナンバーを聴いていました。GLAYやSMAPやEXILEです。バンドを始めてからレミさんに言われ、ビートルズやストーンズやレッド・ツェッペリンやクリームも聴きましたけれど、興味がもてませんでした。ところが20歳くらいから、洋楽のロックをものすごくかっこよく感じるようになった」

 そう話す亀本は、やがてアメリカやイギリスのギタリストの演奏を映像でチェックするようになった。

「今の日本のバンドのDVDを見ても、機材まではわかりません。客席から機材が見えないようにきれいに収納されているので。ところが、1960年代のジミ・ヘンドリックスの映像には、アンプやエフェクターが丸出しで映っています。だから、何を使ったら、どんな音になるかがよくわかる。できるだけ同じものをそろえて、いろいろな音を試してみました」

 こうして、グリムのサウンドは構築されていった。

「レミさんは僕について、自分の世界観を広げると言ってくれています。でも、僕自身が思う自分の強みはギターのリフだと思います。グリムの各曲に、その曲だけのリフを作っていることです」

 弦を1本ずつ弾くギターソロは、技術があれば、ある程度コピーできる。しかし、複数の弦を一気に弾く和音をからめたリフは個性が際立ち、ほかのギタリストはコピーしづらい。亀本がつくるリフは亀本だけのものだ。

『LOOKING FOR THE MAGIC』では、さらに自分たちの音を求めて、ロサンゼルスまでレコーディングしに行った。その理由を松尾が語る。

「日本の技術的に優れたプレイヤーの多くはオールマイティです。ロックもジャズもポップスも、ときには劇伴もアニソンもやる。どんな音楽でもこなせないと、ビジネスとして成立しない環境だからです。それで、今回は特に個性を求めてアメリカまで行き、私たちのリスペクトする人に参加してもらいました。ドラマーはジャック・ホワイトのバンドで叩いているカーラ・アザーです。ベーシストはオルタナティブ系のバンド、ザ・ラカンターズのジャック・ローレンスです。どちらにも自由に演奏してもらいました。完成度には満足しています」

 このメンバーでレコーディングしたナンバー「TV Show」は音数少ない骨太なロック。サビの松尾の喉はアグレッシブに鳴る。亀本のギターは鋼のようにリフを刻む。『LOOKING FOR THE MAGIC』のツアーは3月スタート。楽しみだ。(神舘和典)

著者プロフィールを見る
神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

神舘和典の記事一覧はこちら