「全人類に、どの時代でも届くロックをつくりたい」
GLIM SPANKYのヴォーカリストでギタリスト、松尾レミははっきりと言う。
「それには誰にでもわかるようなシンプルで、しかも深い言葉を歌うことが大切だと思っています。そのシンプルな言葉から、リスナーのかたがたそれぞれがイメージできるロックを意識しています」
グリムは2014年にメジャーデビューしたロックユニット。メンバーは松尾とギタリストの亀本寛貴の2人。力強くビブラートがかかった松尾のシャウトは、ジャニス・ジョプリンを思わせる。亀本のギターソロはローリング・ストーンズ全盛期のギタリストのミック・テイラーを、リフの埃っぽさはザ・バンドのロビー・ロバートソンを思わせる。王道のロックだ。一度聴いたら脳にしっかり刻み付けられる。
松尾が書く歌詞には風景があり匂いがある。11月21日にリリースされる最新アルバム『LOOKING FOR THE MAGIC』の「The Flowers」からも景色が広がった。けだるい午後の海原、大切な誰かの香りが染みたワンピース、焼き立てのパンを並べる子……。
「歌詞に景色を見ていただけるとしたら、その理由は私が10代のころから絵本を好んで読んできたからかもしれません。絵から音楽へと想像を膨らませてきました」
松尾はそう言って、自分が愛する絵本のタイトルをあげていった。佐々木マキの『変なお茶会』、荒井良二の『バスにのって』『ユックリとジョジョニ』……など。
「荒井良二さんの『バスにのって』は、アメリカの中部なのか、メキシコなのか、木が一本しか生えていない荒野の彼方から、砂埃をたててワイルドなバスがやってきます。その風景はすごくロック。アメリカンニューシネマの『イージー・ライダー』のような。アメリカのヒッピー文化やサイケデリック・ロックを象徴するバンド、グレイトフル・デッドの音が聴こえてきそうな。そういう絵を見て、イメージして、歌詞を書いています」
グリムのロックには確かに荒野の景色や土埃のにおいがある。
「絵本は、言葉の使い方も参考になります。子どもでも理解できる短い言葉が、ひらがなで書かれているからです。短文だからこそ、読者はそこから自分の物語をイメージする。短い曲の中で表現する歌詞も絵本と同じだと思うんですよ」
松尾は26歳。『イージー・ライダー』もグレイトフル・デッドの全盛期もリアルタイムでは体験していない。
「私の父親は音楽が大好きで、レコードが毎日鳴っている家で育ったんです。自宅のコンポの横にはいつも、そのときにかかっているレコードジャケットが置かれていました。好き、と思った音楽を次々と聴き漁っていった」