NHK連続テレビ小説「まんぷく」で一気に注目度が高まったのが、松竹新喜劇の藤山扇治郎だ。ヒロイン・福子(安藤サクラ)に思いを寄せていた同僚の料理人・野呂幸吉役で、福子に缶詰をプレゼントし続ける姿が印象深く“缶詰の人”と呼ばれ、全国的な知名度も得た。
藤山の祖父は松竹新喜劇の大看板・故藤山寛美さん(1990年に60歳で逝去)。寛美さんの五女である母と小唄の家元である父のもとに生まれ、女優・藤山直美は伯母にあたる。
祖父が大スターだった世界に入るということは、メリットもあるが、それ以上にデメリットが大きい。松竹新喜劇、そして、扇治郎の取材は幾度となくしてきたが、寛美さんの腕、キャラクターありきの台本も多数ある。そこに足を踏み入れるということは、常に祖父と同じ土俵で比べられるということ。年齢もキャリアも違う大看板と比較され、かなわなくて当然の状況であったとしても「祖父には及ばない」というレッテルをいちいち貼られる。非常にリスキーな選択肢とも言えるが、過去の取材メモを見てみると、扇治郎の背中を押したのは歌舞伎俳優の故中村勘三郎さん(2012年に57歳で逝去)だった。
寛美さんは扇治郎が3歳の時に亡くなった。寛美さんと直接触れ合った記憶はないが、家柄なのか血筋なのか、小さな頃からアニメなどよりも舞台を見るのが好きで、歌舞伎もよく見ていた。その中で、誰に教えられるわけでもなく、ついつい目が向いていたのが勘三郎さんだったという。
「僕が6歳の時、初舞台となった東京・歌舞伎座での公演に誘っていただいたのが、当時の勘九郎、後の中村勘三郎さんだったんです。おじいさん(寛美さん)と勘三郎さんは家族ぐるみで親交がありまして『お孫さんに出てほしい』となったようでして」
その時の演目は「怪談乳房榎」。勘三郎さんの息子役だったが、舞台経験ゼロで当然けいこでも何一つ分からない。戸惑いながらも、セリフを言うと、その度に勘三郎さんが大きな声で「うまい!」とほめてくれた。いつも見ていた憧れの人から日々ほめられる。当然、うれしい。その楽しい思い出が残り、その公演後も子役を続け、ことあるごとに勘三郎さんからアドバイスももらっていたという。