工藤監督の説明は明確だった。8番で切っておく。すると9回は9番からだ。恐れていたのは“その先”。田中、菊池、丸、そしてシリーズ4試合で3本塁打の4番・鈴木誠也と続く上位打線だ。仮に9回、1番・田中からのスタートとなり、無死から塁に出られたら、何ともやっかい。だからこそ、何としても會澤でこの回は終わっておきたい。念には念を入れての森投入だった。

「きょうは投手のシミュレーションをして、回またぎもあると、勝てると思ったらいかせてもらうと。リリーフ陣はよく投げてくれました。森君も(イニングをまたいだ9回に)集中力を切らさないで、いいピッチングをしてくれました」

 指揮官の期待通りに、森は「4つのアウト」を奪って、広島打線をゼロに抑えた。10回にはセットアッパーの加治屋蓮を投入。第3戦の8回、2本塁打で5失点を喫し、アウト1つしか取れずに降板した右腕が無失点で復調を告げると「割り切って、自分の球を信じてよく投げてくれた」と工藤監督。その執念の采配は10回、4番・柳田がバットを折りながらも右翼席へ運ぶという今シリーズ1号の“驚弾”で締めくくるサヨナラ勝利で結実した。

 本拠地・ヤフオクドームでの日本シリーズ12連勝で2年連続日本一に王手をかけ、3日から再び、敵地・広島へ乗り込んでいく。

「王手になっても、向こうに行っての試合がある。もう1つ勝つという思いより、1試合1試合、大事に戦ってという思いです」

 博多では3勝。しかし、マツダスタジアムでの第1、第2戦は1敗1分け。つまり、勝っていない。球場中、360度の視界のほとんどが「赤」に染まる敵地の大声援の中で白星をつかむことの難しさを、指揮官はすでに実感している。だからこそ、日本一への意欲を語りながらも、どこかその言葉の中に慎重さがにじみ出た。

 広島独特の雰囲気の中で、いかにして「あと1つ」をつかむのか。ソフトバンク、2年連続日本一への最終ミッション。頂上決戦はいよいよクライマックスを迎える。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。