市川温子さん
市川温子さん

――単純といっても、説明するの難しいですよ。

 難しいですけど、でもまあ、単純なんですよ。

――物質には必ず反物質があって、宇宙誕生のころ両者は同量だったのに今の世界はほとんど物質ばかり。それは、物質と反物質の対称性が破れているからだと考えられており、それを「CP対称性の破れ」と呼ぶ。しかし、実験で見つかっているCP対称性の破れはわずかなもので、これでは現状を説明できず、物理学の根本に横たわる大きな謎となっている。きっとどこかでもっと大きな破れが見つかるはず、それはニュートリノで見つかるのではないか、ということですよね。

 そうですね。ニュートリノ実験は、それまでやっていた原子核実験と手法としてはあまり変わらなくて、実験としてはどっちも楽しいんです。だけど、目標はこういう大きな話がいいと思った。私、ずっと将来が不安でしたけど、自分の中には「自分はできる人なんじゃないか」という思いもあった。同僚やスタッフと話していて、「自分のほうが深いところまで物理を理解している」と思うときもあったので。

 私が大学院を終えるころ東海村でJ-PARCの建設が始まったんですが、ここにニュートリノ実験施設を造るかどうかはまだ決まっていなかった。これは私がいないとダメな状態にできるなって思いました。

――2001年に博士課程を修了して、2002年7月にKEKの助手に。

 博士号取得後から、ポスドクとしてニュートリノ実験で働いていました。ひたすら施設の建設をやりました。仕事は大変だったけれど、助手になるちょっと前ぐらいから大変さというか、ウジウジする自分を楽しむようになってきました。

――そして2007年に京大の准教授に就任された。

 西川さんが京大からKEKに移って、後任のリーダーになった中家剛さんから京大に来てほしいと声がかかった。でも、まだ子どもが1歳か2歳のときで、「無理だ」と言って一度は断ったんです。

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「いいよ。子どもの面倒は俺がみるわ」