健常児の次女は障害のある姉や弟のいる「きょうだい児」としての葛藤を抱えてきました。3年前の体育祭前には弟のクラスと同じチームになり、母親に複雑な心境をぶつけてきたことも(Getty Image)
健常児の次女は障害のある姉や弟のいる「きょうだい児」としての葛藤を抱えてきました。3年前の体育祭前には弟のクラスと同じチームになり、母親に複雑な心境をぶつけてきたことも(Getty Image)

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 5月になりました。高校2年生の次女は今月行われる体育祭の実行委員となり、GW中も準備のために登校していました。次女と息子が通う中高一貫校では、高2の1年間は学校生活の集大成であり、次年度の受験に備えるため年度内で生徒会も部活も引退します。次女はすっかり手が離れているので、親としてできることは、疲れると食欲がなくなってしまう体調管理程度ですが、今まで生徒会で積み重ねてきたものを最大限出すことができるように応援していきたいと思っています。

 今回は、そんな次女(ぴぴ)のことを書いてみようと思います。

■体育祭で弟と同じチームに

 次女は、我が家の3人の子どものうち唯一の健常児です。普段はキラキラした華やかなものが大好きなどこにでもいそうな高2女子ですが、医療的ケアが必要な双子の姉と足が不自由な弟に挟まれ、「きょうだい児」(病気や障害のある子どもの兄弟姉妹のこと)として長い期間葛藤を抱えていました。現在では彼女も成長し、さまざまな事情を理解しているようですが、小学校高学年から中学生頃が葛藤のピークだったように思います。

 次女が中2の頃、次女と1学年下の息子のクラスが体育祭で同じチームになったことがありました。チームの色別の一覧表を持ち帰った日の次女はあきらかに不機嫌で、いったんは無言で部屋に入ったものの、しばらくするとリビングに戻ってきて荒れだしました。

「なんでコウが同じ学校にいるのよ!しかもなんで(体育祭が)同じ色?去年は何にも面倒なこと言われなかったのに。もぉ、ほんとやだ!!」

 そう言うと、持っていた手紙の束をバサッとテーブルに置きました。手紙の内容はすべて体育祭に関することで、一番目立つ場所に色別に組まれたクラス名が書かれていました。コロナ禍のため、自分の出番以外は教室に戻り、プロジェクターを使ってリモートで観戦するようです。

「同じチームだから、クラス全員がコウが走るのを見て応援するんだよ?モニターだからバッチリ見えるし、大声出せないからじっと見るしかない」

 そう声を荒らげる次女に、私はこう話しました。

「でも、今年のクラスはコウのことをよく知っている子が多いし、コウが遅くても意地悪なことは言われないんじゃない?それに今年のコウのクラスは速い子が多いから大丈夫だよ」

 すると、次女は、

「そういうことじゃないんだよ!」

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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