食事作りサービスのスタッフは酢豚など手の込んだメニューを作ってくれる(写真:会社員女性提供)
食事作りサービスのスタッフは酢豚など手の込んだメニューを作ってくれる(写真:会社員女性提供)

■多くのニーズ

 拡大する市場。野村総研が18年に約3千人を対象に実施した調査では、家事代行の利用者は1.8%ではあったが「将来的に利用したい」と考える人は36.5%。17年の国内市場規模は698億円だが、25年には最大8千億円超に拡大すると予想されている。その要因として、もうひとつ忘れてはならない点がある。

「限られた時間の中で優先順位をつけ、家事を外注してでも、子どもとの時間を大切にする人、自分のための時間を確保しようとする人が増えている」(永井准教授)

 前出の会社員女性も、この言葉に大きくうなずく。この冬、中学受験を迎えた息子は、塾には通っていたが、先生とのやり取りや宿題の管理などは親のサポートが不可欠だったという。女性は、

「塾や家庭教師を選ぶ時は、家庭の教育方針と合っているかについて、かなりの時間をかけて検討しました。学校のPTA参加や担任の先生とのやり取りなども密にやっています。家事を外注しているからこそ、共働きでも中学受験を戦うことができました」

 と話す。

 一方で、家事代行を使うと、それまでの家庭内の役割分担を変えずに済むため、夫が成長しないというデメリットに直面することもある。

 横浜市のシステムエンジニアの女性(41)は、2人目を出産直後、部屋が散らかったままの日が続き、家事代行サービスに登録。早速、来てくれたスタッフがお風呂とキッチンを新築と見間違えるほど磨き上げ、子どものおもちゃが散乱したリビングもすっきり整えてくれてからの悩みを吐露する。

「夫が以前に増して、何もしなくなり、イライラしています。片づけてよ、と言うと『誰か呼べばいいだろ!』と言われ唖然。私は、あなたと一緒に家庭を運営したいのに」

 著書に『家事は大変って気づきましたか?』のある作家・生活史研究家の阿古真理さんは、

「家事代行が広がっている前提に、家庭内での家事分担が進んでいないという現実があります。特に男性側に『家事は自分がやるべきことではない』という意識があり、それが変わらない結果でもあります」

 と指摘する。確かに、家事代行の市場が拡大する一方で、総務省が実施した2021年の「社会生活基本調査」によると、共働き世帯における夫婦の家事・育児に関わる時間差は1日あたり4時間38分、妻が長く、15年前と全く同じだった。阿古さんは、

「仕事は生活を支えますが、家事は命を支えるもの。家事代行はいつまでも使えるものではありません。退職や病気、別離などで世帯収入や家族構成に変化があった時のことを考えると、常に家事のスキルを維持しておく必要はある。夫育ても継続してやっておくべきでしょう」

 と話す。家事負担が減って万々歳とばかりは言っていられない側面もあるものの、家事代行というサービス形態はいま、家庭にとどまらず、あちこちに広がっている。

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