「TENOHASI(てのはし)」が月2回、原則第2、第4土曜日に行う食料配布の列に並ぶ人たち。今年になって並ぶ人は一段と増えた
(photo 編集部・野村昌二)
「TENOHASI(てのはし)」が月2回、原則第2、第4土曜日に行う食料配布の列に並ぶ人たち。今年になって並ぶ人は一段と増えた (photo 編集部・野村昌二)

 コロナ、円安、物価高──。この三重苦が私たちを痛めつけている。人々はどうしているのか。師走の東京を歩いた。AERA2022年12月26日号の記事を紹介する。

【図表】バナナ、パン、牛乳…主な食品の価格上昇率はこちら

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「年を越せるか、きついです」

 クリスマスのイルミネーションで彩られた東京・池袋。12月10日、都会の片隅にある公園で、食料配布の列に並んだ40代の男性は寒そうに手をこすり合わせると、そう言った。

 この食料支援は、生活困窮者を支援するNPO法人「TENOHASI(てのはし)」が毎月2回、行っている。

 列に並ぶのは中高年の男性が多いが、スマホの画面をじっと見つめながら待つ若者や女性の姿も目立つ。日が暮れ、配布が始まる午後6時には、広い公園に長蛇の列ができた。

 先の男性は関西地方の出身。高校卒業後は千葉県内の工場で働いていたが、5年ほど前に足をけがするとクビになった。以来、派遣会社に登録し働いた。今は同社の寮で暮らしながら、ごみ収集の仕事をしている。

 収入は手取りで月16万円ほど。そこから家賃や光熱費などを引くと生活はギリギリ。今年になって仕事が不定期になった。

 そこを物価高が襲った。

 毎日食べていた食パンもバナナも値上がり。牛乳も高くてなかなか買えない。冷蔵庫は空っぽで、食事は1日1食の日もある。この数カ月で体重は5キロ減った。

 頼れる人はいない。貯金もなくこの先どうすればいいのか、明日への不安で押しつぶされそうになる。ぽつりとこぼす。

「生きるだけで精一杯です」

■非正規雇用を直撃

 同NPOの清野(せいの)賢司事務局長によれば、食料支援に集まる人の数はコロナ禍以降、増加の一途をたどっているという。今年になって500人を超えていて、コロナが本格化した2年前の2倍以上だ。

「家はあるけど困窮している非正規雇用の人が増えている。減る兆しがなく、来年どうなるか想像もできない」(清野さん)

 多くの人々の暮らしを脅かしたコロナ危機。いま人々を苦しめているのが、ウクライナ危機と急速に進んだ円安を背景にした相次ぐ値上げだ。

 10月、月別では今年最多となる約6700品目の食料品価格が平均16%引き上げられ、11月には乳製品など833品目が値上がりした。例えば、牛乳(1リットル)は東京都区部で前年同月比で9.3%高い235円となった。

 そして12月には、「物価の優等生」といわれた卵や米など145品目も値上げされた。

 物価高騰は、出費がかさむ子育て世帯も直撃する。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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