解説者として人気を集めた本田圭佑さん(photo JMPA)
解説者として人気を集めた本田圭佑さん(photo JMPA)

 サッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会の「ABEMA」の独自解説で、注目を集めた元日本代表・本田圭佑さん。なぜ、多くの人たちに支持されたのか。ネット社会学者・山本敦久さんに聞いた。2022年12月26日号の記事を紹介する。

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 W杯での活躍で、日本代表への注目が集まりました。ただ、2014年のブラジル大会ごろからの約8年間は、日本代表の人気は下落傾向でした。とくにここ1年の森保ジャパンは「代表のオワコン化」が言われるほどの危機的な状況でした。

 日本代表の人気や価値は、テレビを中心とするメディアが作り上げてきました。一方で、この8年間は、多くの人が主要なメディアをテレビからインターネットに切り替えていった時期。このメディア環境の変化に代表人気がうまくマッチングしなかったことが、低迷の一つの理由ではと見ています。

「絶対に負けられない戦いが、そこにはある」。この長く続いてきたテレビ朝日による応援を鼓舞するメッセージにある「みんなで見ようぜ」という押しつけ的な空気感は、ネットを主要メディアとする人たちには強い圧力にも感じ、「そうじゃないサッカーの見方」を選び始めた。それが今大会だったと思います。

 選手を「さん付け」で呼ぶなど、インターネット放送局「ABEMA(アベマ)」での本田圭佑さん(36)の解説が好評でした。

 サッカーを楽しむ今の若い層は部活動でも先輩後輩関係なく比較的「くん付け」で呼び合うんです。縦社会とは違う新しいスポーツ環境や感性はすでにサッカー文化の中で醸成されていて、それと本田さんの解説は実は近いところにあったのだと思います。

 熱く語る他の解説者と違い、意外に低い声で淡々と解説する本田さんのあの「距離感」が、「テーマはこっちで見つける」というネット文化が育んだ感性とマッチングし始めているとも感じます。

 今回、ロッカールームの様子を実況なしでただ流し続ける映像が好意的に受け入れられたのも、「素材をくれたら、その先のストーリーは視聴者が決める」という新しい感性とうまく融合したのでしょう。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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