電動ベルトで引き上げて乗車

 いろいろ検索して気に入ったのは、トヨタの「ウェルキャブ」と呼ばれるシリーズでした。車種も機能も選択肢がたくさんあることが特徴のようです。まずは7人乗りのボックス車を見に行くことにしました。

 営業さんによると、この車は我が家のような重心児を育てる家族だけでなく、高齢の女性が自分より身体が大きい男性を介護する時にも使用しやすいように設計されているそうです。

 スロープは片手で簡単に動かせる程軽く、車いすを電動で引き上げてくれるベルトが付いているため、乗車時に力を入れる必要はありません。操作方法も「リモコンのボタンを押すだけ」「車いすにベルトを引っかけてロックするだけ」と、とてもシンプルで簡単です。

 さらに3列目のシートは収納できるため、広いスペースを利用して長女を着替えさせたり、胃ろうからの注入もできそうでした。車内は大人が歩けるくらい広いのに、外側のサイズは当時乗っていた車より小さくなることにも驚きました。

 次女と息子は、後ろのスライドドアがタクシーのように運転席の操作で自動で開くことと、USBでスマートフォンの充電ができることがとても気に入ったようです。子どもたちの後押しもあり、購入することに決めました。

 我が家は私の両親と二世帯で住んでいるので、それまでは一緒に出かける時には2台で移動していたのですが、この車に替えてからは1台でも動けるようになりました。大人が多いと、長女のようすを見る人数もケアをする人数も増えるのでとても助かります。こんなところでもメリットがありました。そして人工呼吸器が必要になった現在は、医療機器を乗せたワゴンをそのままスロープから入れることができます。医療的ケア児は外出時に荷物が多くなるので、移動しやすさも大きなポイントです。

スロープが車止めに当たってしまう

 ……と、ここまでメリットばかり書いてきましたが、実は福祉車両を購入する前より少しだけ不便になってしまったこともあります。外出先の駐車場でスロープを出そうとすると車止めに当たってしまうことがあり、その場合は向きを替えて前から入れ直します。でもそうすると、スロープを車道に向かって出さなければならず、とても危険なのです。以前から病院などで前に向けて駐車している福祉車両を見かけていたのですが、理由がよくわかりました。スロープを出すスペースが必要なため、目的地の駐車場の優先スペースが空いていなかった時には、少し離れた別の駐車場に止めて歩いたこともあります。さらに、大きな駐車場は水はけを良くするために車道部分にマンホールがあるところも多く、スロープを出すとマンホール周辺の水たまりの中に入ってしまうこともありました。

 日本の高齢化を見ても、車いすを使う人の割合は増えていると思われ、今後ますます福祉車両の需要が高まっていくと思います。車の開発に合わせて、社会での受け入れ環境も進んでいくと良いなと思っています。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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