なつきさんの作品「馬の目」。ひきこもる原因となった、父親の目と大きなところが似ているという(写真:なつきさん提供)
なつきさんの作品「馬の目」。ひきこもる原因となった、父親の目と大きなところが似ているという(写真:なつきさん提供)

 ひきもこもりになるも、脱することができた20代女性がいる。彼女は人の気持ちを考えない父親に苦しんできたが、なぜ立ち直ることができたのか。AERA 2022年11月7日号の記事を紹介する。

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 馬の目は、ひきこもる原因となった父親の目に似ているという。

「父親に言われたことを思い出して、しんどかったことがあって。それを写真で頑張って表現しました」

 大阪に住む、なつきさん(25)はそう話す。

 もともと人との関わりが苦手で、小学校高学年くらいから学校になじめなくなった。中学に入りしんどくて勉強ができなくなると、父親が「勉強しろ」と言ってくるようになった。食事をしている時もテレビを見ている時も、顔を見れば「なぜ勉強しないんだ」と言ってくる。

 容姿にも触れてきた。

 当時太っていたので「デブ」「ブス」「ブタ」と揶揄し、顔にニキビができると「ぶつぶつ」などとからかった。

 父親は娘のことを思い言っていたのかもしれない。だが、人の気持ちを考えず自分の価値観だけを押しつけられているとしか感じなかった。それでも父親の言うことが全てだと思っていたなつきさんは、何も言い返せなかった。

 次第に体が動かなくなり、朝、布団から出ることができなくなった。ひきこもるようになって、生きる意味も目標も見いだせず部屋で一人苦しんだ。

 高校は通信制に通ったが、卒業後もなんとなくだらだらと生きるのが苦しかった。やがて周りが就職するようになると、自分だけが取り残されていく感じを覚え、「死にたい」と思うようになった。

なつきさんの作品「乾燥した手」。自分のことを大切にできない時があり、手の乾燥もそのままにしてしまい悪化した時の写真(写真:なつきさん提供)
なつきさんの作品「乾燥した手」。自分のことを大切にできない時があり、手の乾燥もそのままにしてしまい悪化した時の写真(写真:なつきさん提供)

 ひきこもりを脱したのは昨年。

 死にたくて仕方がない中、最後に父親がどれだけひどかったかを誰かに聞いてもらいたくてカウンセリングに通った。カウンセラーに父親のことを話すと、気持ちが楽になり、やるしかないと思うようになったという。

 今年4月、実家を出て、好きだった写真の専門学校に通いはじめた。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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