photo Frederic
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「私たち誰もがそうだと思うのですが、外見を整えることには『仮面』的な要素がある。世間に対しての『外的な要素』として、私たちがよく目にしてきたダイアナの外見ができているんです。今回は最終的にその『鎧』を外して、彼女の『素』が出るようにと意識しました」

 吉原さんが渡英したのは99年。ダイアナ妃が亡くなって2年、すでに追悼ムードは収まっていたが、いまも命日や10周忌などの節目に、イギリス国民の彼女への愛の大きさを感じるという。

ケンジントンにあるスペンサー・ハウスに立ち寄ったとき、たくさんの献花があって驚いたことがあります。本当に国民のアイドル的な存在で、たくさんの人に愛されていたんだなと」

よしはら・わかな/ヘアメイクデザイナー。1980年、東京都生まれ。数々の映画でヘアメイクデザイナーとして活躍中。代表作に「ナイル殺人事件」「ベルファスト」(2022年)などがある(photo 本人提供)
よしはら・わかな/ヘアメイクデザイナー。1980年、東京都生まれ。数々の映画でヘアメイクデザイナーとして活躍中。代表作に「ナイル殺人事件」「ベルファスト」(2022年)などがある(photo 本人提供)

■幸せをつかむ物語

「スペンサー ダイアナの決意」からは、旧態依然とした制度のなかで「自分らしく生きる」ことを封じられた一人の女性の姿が立ち現れる。それは現代を生きる我々にも共感できるものだ。吉原さんもいう。

「私にも4歳と7歳の男の子がいますが、やはり子育てをしながら仕事をする大変さを日々感じています。どんな女性も本作に描かれる彼女の『息詰まる』感覚や葛藤には共感できるのではないでしょうか。ラライン監督も言っていました。『これはプリンセスのハッピーエンドではない。彼女の“王子さま”はいなくなってしまったけれども、そのなかで彼女が女性として母親としての幸せをつかむ物語だ』と。私も最終的に、この物語はハッピーエンドだと思うんです」

“ダイアナ”とはなんだったのか──25年を経たいまこそ、その問いが現代に突き刺さる。(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2022年10月10-17日合併号より抜粋