大宮:チック……。
倉本:で、僕もテレビを始めたときに、テレビはドラマよりチックで成立してるんじゃないかって気がして。
大宮:す、すみません、チ、チックって何ですか……。
倉本:何なんだろうな。ドラマっていうのはいわば「筋書き」です。チックっていうのは、そこに加わったもので、短編小説でいえば、「へそ」みたいなものでしょうね。「ドラマチック」の「チック」ですよ。
大宮:人の心を打つところ、琴線みたいなことですか。
倉本:ええ。この前、集まりがあって、「北の国から」で何が印象に残ってるのかって話が出て。ラーメン屋で「子どもがまだ食ってる途中でしょうが」って怒鳴るシーンとか、泥のついた1万円札とか、ベスト3に入るのは全部「チック」なんですよ。
大宮:なるほど!
倉本:ドラマ、関係ないんですよ。例えば怒鳴るシーンは、僕の1稿目にはなかった。だけど何か気持ちが悪くて。考えると、「へそがないな、この作品は」と思ったんですね。セリフっていうのは用事を伝えるだけじゃないんですよ。セリフが出てこない「間」があって、ポッと出てきた言葉にグッときちゃうことがある。
大宮:倉本さんの「チック」はどこでこのように育ったんですか。
倉本:浪人中ずっと、喫茶店で人の話を盗聴してたんですね。隣に座ったアベックの言葉を、ノートに書くみたいなことを、ずっと。
大宮:うえー!
倉本:浪人時代は、ほとんどシナリオの勉強をしてたわけです。
※AERA 2022年9月26日号