(AERA2022年8月29日号より)
(AERA2022年8月29日号より)

■投票実施は困難の見方

 ウクライナ軍が州都ヘルソンの奪還に成功するようなことになれば、首都キーウの攻略を断念させたのに次ぐ大きな戦果であり、戦況の潮目が変わるきっかけとなるかもしれない。

 南部のヘルソン州とザポリージャ州ではこれまで、ロシアの占領当局が「ロシア化」と呼ばれる政策を進めてきた。

 住民にロシア国籍を付与してパスポートを配布する、ロシアのテレビ放送を流す、学校でロシアの教材を使って教育する、公用語をロシア語に切り替える、などの施策を進めて、占領の恒久化を狙う手法だ。

 さらに両州では、ウクライナからの独立やロシアへの編入を問う住民投票が9月にも実施されるとの見方も出ていた。

 これは、ロシアが占領したクリミアや、ドンバスの親ロ派支配地域で14年以降に起きたのと同じシナリオだ。

 だが、ウクライナ軍の攻勢や住民らの抵抗を受けて、9月の投票実施は困難になりつつあるという見方が強まっている。

 それでも、ロシアの首脳部から聞こえてくるのは、今のところ強気の発言ばかりだ。

 プーチン氏は7月初めに「ロシアはまだ本気を出していない」とうそぶいた。もっとひどいのがメドベージェフ前大統領。6月にSNSに「2年後にウクライナが世界地図上に存在しているなどと、誰が言ったのか?」と書き込んだ。

■目標達成は決してない

 これらの言葉は、いかに苦戦しようとも、作戦を継続するという決意の表れだろう。

 メドベージェフ氏の発信について言えば、今後のロシアで生き残るには、できるだけ強気の発言をすることが得策だという、政権内部の雰囲気を反映していると見ることもできる。

 確かに、仮にウクライナがヘルソン奪還に成功したとしても、ロシア軍を全領土から追い出すにはほど遠い。ロシアには「軍事作戦」を今後も長期間にわたって継続できるぐらいの体力は残っているだろう。

 ただ、一つだけはっきりしていることがある。それは、いかに戦闘が長引こうと、「ロシアに従順な『正しいウクライナ』を作る」というプーチン氏にとっての目標が達成されることは、決してないだろうということだ。(朝日新聞論説委員、元モスクワ支局長・駒木明義)

AERA 2022年8月29日号より抜粋

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駒木明義

駒木明義

2005~08年、13~17年にモスクワ特派員。90年入社。和歌山支局、長野支局、政治部、国際報道部などで勤務。日本では主に外交政策などを取材してきました。 著書「安倍vs.プーチン 日ロ交渉はなぜ行き詰まったのか」(筑摩選書)。共著に「プーチンの実像」(朝日文庫)、「検証 日露首脳交渉」(岩波書店)

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