ロシア軍が攻勢をかけるウクライナ東部ドネツク州で、破壊された住居(photo AP/アフロ)
ロシア軍が攻勢をかけるウクライナ東部ドネツク州で、破壊された住居(photo AP/アフロ)

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって、8月24日で半年となる。戦闘が長期化する中、今後は南部ヘルソンを巡る攻防が鍵を握りそうだ。 AERA 2022年8月29日号の記事から紹介する。

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 プーチン氏は8月15日、モスクワ郊外で開いた国際的な兵器展示会で、作戦継続に向けた意欲を次のように語った。

「わが国の兵士はドンバスの地を一歩一歩解放している」

 ドンバスとは、ウクライナ東部のドネツク州とルハンスク州を指す。両州の領土の約3分の1は、14年以降親ロ派武装勢力によって占拠されており、それぞれ「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を自称している。

 この2州全体の完全占領が、ロシアにとっての当面の最優先目標ということだ。

 だが、実際の戦況に目を移すと、とてもロシアの思い通りには進んでいないのが現状だ。

■ロシアが苦戦する理由

 ロシア軍は3月末、ウクライナの首都キーウ攻略を断念。その後は作戦の第2段階として、ドンバスの「全面解放」を目指してきた。しかし、6月末にルハンスク州の臨時州都が置かれていたセベロドネツクを占領して以降は目立った戦果を上げられていない。

 ドネツク州では、「第2段階」開始時に占領していたラインから、ほとんど軍を進められていないのが実情だ。

 ロシアの苦戦の原因としては、3点の要因が挙げられる。

 1点目は、第1段階で失った数万人規模の兵力の補充が十分進んでいないこと。2点目は、米国が供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」などの兵器が、ロシア軍の貯蔵施設や戦略拠点の攻撃に威力を発揮していること。3点目は、ウクライナ南部ヘルソン州でウクライナの反撃が勢いを増し、対応に追われていることだ。

 この3要素はいずれも密接に関連している。

 中でも現在、注目されるのが、ヘルソンを巡る攻防だ。

 ヘルソン州はクリミア半島の北方に位置し、ウクライナを南北に流れるドニプロ川の両岸に広がっている。西岸に位置する州都ヘルソンは、2月24日の開戦後わずか1週間で、ロシア軍の手に落ちた。州内を流れるドニプロ川にクリミア半島の水源となっている運河の取水口があることもロシア側が占領を急いだ背景とみられる。

 しかしここに来て、ウクライナ側が州都を含むドニプロ川西岸地域の奪還に向けて攻勢をかけている。ウクライナ軍は、ロシア軍の補給路となっている橋を攻撃し、西岸のロシア軍を孤立させようとしている。本記事の執筆時点では、ロシア軍の司令部が西岸から撤退を始めたという情報も出始めている。

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駒木明義

駒木明義

2005~08年、13~17年にモスクワ特派員。90年入社。和歌山支局、長野支局、政治部、国際報道部などで勤務。日本では主に外交政策などを取材してきました。 著書「安倍vs.プーチン 日ロ交渉はなぜ行き詰まったのか」(筑摩選書)。共著に「プーチンの実像」(朝日文庫)、「検証 日露首脳交渉」(岩波書店)

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