■置き換わるかは不明

 WHOは、BA.2.75の伝播力や重症化率が既存の系統よりも高いかどうかはまだ不明だとしている。

 世界中の専門家らが作る組織「Nextstrain」によると、インドではBA.2が主流だった5月ごろからBA.5が増え始め、6月以降はBA.2.75が急速に増えつつある。同時に感染者数も増えつつある。

 インドからの遺伝子情報の登録状況などに基づく推計では、BA.2.75は1日あたり0.12ずつ報告頻度が増えている。BA.5よりも速く、Nextstrainはこう説明する。

「推計増加速度や変異の特徴から、BA.2.75の感染が広まる可能性は高い。ただし、BA.5に置き換わるかどうかはまだわからない」

 西浦博・京都大学教授が8月3日、厚生労働省の専門家会議で公表した報告書によると、7月10日までのインドからの報告を基に推計すると、BA.2.75はBA.5の1.14倍、伝播力が高いとみられるという。伝播力がより高く、広がれば、第7波は長引くかもしれない。

 BA.2.75といった専門的な分類名は一般の人には覚えにくい。そこでWHOは、伝播力や重症化率がより高いといった特徴のある変異株を「懸念される変異株(VOC)」に認定し、オミクロンやデルタなどギリシャ文字を使って命名している。WHOは、BA.2.75は注意深い監視が必要だとしているものの、まだVOCには認定しておらず、ギリシャ文字に由来する名前もつけていない。

 しかし、ネット上では7月上旬から、「ケンタウロス」というニックネームが付けられ、定着しつつある。ケンタウロスは、上半身が人間で下半身が獣のギリシャ神話に登場する生物で、星座名でもある。ツイッター上で命名した人は、24しかないギリシャ文字ではなく、もっと多数ある星座名にちなんで命名したと説明している。

 今後、星座の数ほど多くの変異株が登場するのだろうか。それはまだ誰にもわからない。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2022年8月15日号-22日合併号