M7は決して小さな地震ではないが、南海トラフ地震などで想定されるM8~9クラスと比較すればそのエネルギーはけた違いに弱い。実際、日本列島やその周辺では年に1度程度はこの規模の地震が起きており、自然現象として特筆すべきものではない。だが、都市直下で発生すれば都市機能はマヒし、多くの人命も犠牲になる。95年の阪神・淡路大震災、16年の本地震はいずれもM7.3だった。

 東京都は5月25日、この首都直下地震の新たな被害想定を公表した。12年の公表以来、10年ぶりの見直しだ。平田さんは、東京都防災会議の地震部会長として議論を主導している。

「発生確率が比較的高いもののなかから、都心に重大な被害をもたらす地震、多摩地区に大きな影響を及ぼす地震、関東大震災を引き起こした海溝型の巨大地震など典型例としてふさわしいパターンを選定し、被害想定を算出しました。都内の被害が最も大きくなると想定されるのは、区部に典型的な被害をもたらす『都心南部直下地震』です」

 大田区付近を震源とし、区部の約6割で震度6強以上の揺れに襲われる。空気が乾燥する冬の夕方、風速8メートルの比較的強い風が吹く条件だった場合、建物被害は19万4431棟(多摩地区含む、揺れ・液状化・急傾斜地崩壊と火災の合計)、6148人が犠牲になるという。想定される死者の内訳は揺れによる建物倒壊等が3209人、火災が2482人、家具の転倒など屋内収容物によるものが239人などとなっている。

■木密地域の防災がカギ

 被害を増やす大きな要因のひとつが、「木密」と言われる老朽木造住宅密集地域の存在だ。区市町村別で最も多い795人が亡くなり、建物1万1952棟が全壊すると試算された足立区にも、木密地域が広がっている。北千住駅近くに住む男性(35)はこう懸念する。

「北千住はおしゃれな街というイメージがあるかもしれませんが、駅近くにも古い木造住宅が密集しています。大きな揺れで倒れる家もあるでしょうし、細い路地に家が密集しているので、火事が起きても消防車が入れず、延焼するのではと心配です」

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