リクルートワークス研究所 主任研究員 古屋星斗さん(35)/1986年、岐阜県生まれ。2011年、一橋大学大学院社会学研究科修了。同年、経済産業省入省。17年に退職し現職(リクルートワークス研究所提供)
リクルートワークス研究所 主任研究員 古屋星斗さん(35)/1986年、岐阜県生まれ。2011年、一橋大学大学院社会学研究科修了。同年、経済産業省入省。17年に退職し現職(リクルートワークス研究所提供)

 若手の管理職登用は人材獲得競争でも有利に働く、と米重さんは言う。

「年功序列の壁がないことを説得力のある形で社内外にアピールできます。それに魅力を感じる優秀な人材の確保につなげられます」

 20代の管理職登用の背景には何があるのか。

「社外でも通用するスキルや経験をより早く身につけ、労働市場で優位なポジションを得たいという若手の意識に呼応するため、企業側は社員の育成や登用の幅を拡充している側面もあると思います」

 こう話すのは、若手社会人のキャリア形成に詳しいリクルートワークス研究所主任研究員の古屋星斗さん(35)だ。終身雇用や年功序列が崩壊しつつある日本。若い世代ほど転職を前提に「いかに次のキャリアを選択できる権利を獲得し続けられるか」が新たな「安定」の定義になり、不安や成長欲求も強い、と古屋さんは言う。

 今年3月に古屋さんらが実施した大手企業の若手社員を対象にした調査によると、10年以内に退職を考えている新入社員が約74%に上り、今の会社に20年以上勤めたいという人は約26%だった。

「10年以内のスパンで同じ会社にとどまるかどうか結論を出そうと考える人が主流になりつつあります。彼らには、入社後数年で成長を実感できるタッチポイントを提供しないと会社に見切りをつけられかねません」(古屋さん)

■業務切り出し若手に

 管理職への登用もタッチポイントになり得るだろう。ただ、古屋さんは、若手の成長欲求が管理職登用では満たされない可能性もある、と指摘する。

「若手にとって中間管理職のポストは、職務経歴書がリッチになるメリットはあるものの、あまり魅力的には映らないかもしれません。とりわけ大手企業の場合、60代の社長に50代の部長、他の中間管理職は30~40代といった年功序列のヒエラルキーに20代の自分1人が加わったところで、社内調整業務に追われるのが目に見えているからです」

 ではどうすればいいのか。古屋さんはリーダーも含めプロジェクトごと、若手チームに委ねることを提案する。大手百貨店では、20代社員のみで企画したAR(拡張現実)やVR(仮想現実)を駆使した特別展が好評を得た事例がある。居酒屋・外食チェーンでは、社員育成プログラムとして新入社員だけで運営する店舗が注目されているという。

「上下関係に縛られない若手どうしで、正解がないなか試行錯誤して働く経験は貴重です。大手企業もプロジェクト業務を切り出し、若手の成長機会とすることは可能でしょう」(同)

 若手登用のメリットについて古屋さんは「組織の多様性が増すことによるイノベーション効果」を挙げる。

「日本ではジェンダー、アメリカでは人種の多様性が重要視されますが、世代も多様性の重要な要素です。デジタル社会のスキルや肌感覚が求められる今は、デジタルネイティブでもあり学生時代から経験を蓄えた20代が、即戦力として活躍しやすい環境が整っています」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2022年6月20日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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