「魚料理は負ける気がしない。誰に?って感じだけど(笑)」。築地の鮮魚店「クリトモ商店」で(撮影/高野楓菜)
「魚料理は負ける気がしない。誰に?って感じだけど(笑)」。築地の鮮魚店「クリトモ商店」で(撮影/高野楓菜)

 料理家、栗原友。料理は「思いっきり適当につくってください」と、栗原友は勧める。もっと楽しく、自由に。それは、自身の生き方でもある。母は栗原はるみで、料理家として恵まれたスタートを切った。けれども魚がさばけず、鮮魚店で修業し、強みに変えた。がんをきっかけに髪をピンクに染めた。自分の好きなように生きていきたい。人生はレシピ通りにはいかないから、おもしろい。

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「揚げたて、どうぞ!」

 都内のハウススタジオ。撮影用の料理を作るため、栗原友(くりはらとも)(46)がキッチンに立っている。テーマは「ビールに合う魚つまみ」。取り出したのはスーパーで普通に売られているパック入りのタラの切り身。皮を剥き、フードプロセッサーに入れ、卵と小麦粉、にんにくのすりおろしに、マヨネーズをぶちゅっ。素早い手さばきにレシピを起こす編集者でライターの神吉佳奈子(52)が慌てて聞く。

「待ってトモさん、マヨネーズはどのくらい?」

「大さじ1かな? テキトー!」

 わっははと豪快に笑う。トレードマークのピンクの髪に、指先には淡いピンクのグラデーションのネイル。口調は親しみやすく、意思表示はストレート。嫌なことは嫌、とハッキリ口にする。

 だが常に周囲に気を配り、心遣いはこまやかだ。手際よく完成させた熱々のタラの「フィッシュナゲット」をクライアントとともに「AERAさんもどうぞ」と、差し出してくれる。ふわっふわでガツンとパンチがあり、これはビールに合う!

 衝撃だったのは「帆立のクロスティーニ」。バゲットに細かく切った生のホタテがあふれんばかりにのっている。ホタテの下にはクリームチーズがチラリ。直前にオリーブオイルをかけて食べる。口にしたとたん、予想外の展開にポカンとした。

 ──え? これって魚介? フルーツじゃない? オリーブオイルの効果だろうか。爽やかな塩気と甘みが層になって訪れる。フレッシュで生臭さなど皆無。大げさでなくケーキを食べているようだ。栗原が種明かしをする。

「バゲットには下からアンチョビペースト、刻んだ黒オリーブ、クリームチーズ、ホタテをのせてあります。その順番にすることで、塩味と甘さが層になって順にやってくるんです」

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