AERA 2022年2月28日号より
AERA 2022年2月28日号より

子どもの移植に利点

 当該の患者が手術から1カ月以上生存しているのをみると、超急性拒絶反応は抑えられていると考えられるという。だが、成功かはまだわからないと福嶌医師は指摘する。

「懸念のひとつが心筋肥大です。ブタの心臓を移植すると、ブタの成長ホルモンによって心臓の筋肉が厚くなり、心機能が低下することが知られています。うまくクリアしているのか、発表では定かではありません。今後1カ月は注視が必要でしょう」

 それ以外にも検討点は多い。今回はあくまで、例外的な緊急手術だ。実用化には長い長い月日がかかる。福嶌医師も「医療が変わる」と期待できる状況ではないと指摘する。それでも、仮に将来実用化されれば、脳死患者からの提供だけに頼らず移植を進められるようになるかもしれない。さらに、子どもにとっては大きなメリットもある。

「補助人工心臓を付けた子どもは成長に応じてポンプを取り換える必要があり、大きな負担です。一方、ブタの心臓を子どもに移植すると、成長に合わせて心臓も大きくなる。特に子どもを救うために望まれる技術です」

実際に去年心臓移植を受けた石井さん(男性・名は非公開)もこう話す。

「移植を待つ間は精神的にキツいこともあり、実用化は先でも研究が進んでいると知るだけで希望になる。今回の手術も患者仲間の間では大きな話題になりました。私も将来再移植が必要になるかもしれないし、自分の子が同じ病気にかからないとも限らない。選択肢のひとつとして、技術が進んでほしいと期待しています」

(編集部・川口穣)

AERA 2022年2月28日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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