子ども時代の親からの虐待の傷は、大人になっても深く残る。虐待の報道が後を絶たないが、「負の連鎖」を断ち切るのは、社会全体で取り組む課題でもある
子ども時代の親からの虐待の傷は、大人になっても深く残る。虐待の報道が後を絶たないが、「負の連鎖」を断ち切るのは、社会全体で取り組む課題でもある
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 幼いわが子を死なせた事件で、母親である被告に8年の実刑判決が出た。事件の背景には「虐待の連鎖」があるとも指摘された。虐待はなぜ連鎖するのか。自ら虐待サバイバーの女性が語った。AERA 2022年2月21日号から。

【写真】虐待サバイバーの羽馬千恵さん

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 被告は、うつむいたまま判決を聞いていた。

 2月9日午後、東京地裁で開かれた裁判。東京都大田区の自宅アパートに長女・稀華(のあ)ちゃん(当時3)を9日間放置して衰弱死させたとして、保護責任者遺棄致死罪などに問われた母親・梯(かけはし)沙希被告(26)に対し、平出喜一裁判長は懲役8年(求刑は懲役11年)の実刑を言い渡した。

 途中、被告は裁判長の言葉に涙を拭(ねぐ)い、白いハンカチで目元を押さえた。判決後は手錠と腰縄をつけられるとよろめき、退廷した。

 事件は2020年6月に起きた。検察側の陳述によれば、被告はシングルマザーとして稀華ちゃんを育てていたが、交際相手の男性が住む鹿児島を9日間旅行した。その間、稀華ちゃんを自宅アパートに閉じ込め、おむつを2枚はかせた状態で放置。稀華ちゃんが発見された時、寝室には空のペットボトル1本と開封されたスナック菓子が1袋あっただけ。司法解剖の結果、稀華ちゃんの胃や腸に、食べ物は残っていなかったという。

 幼いわが子を死なせた、決して許されない事件だった。しかし、それだけでは片づけられない重い課題を残した。被告の供述調書によると、被告は小学生の頃に母親から虐待を受けていたという。

■虐待連鎖の割合は33%

 幼少期、被告は母親から包丁で切りつけられたり風呂に沈められたりしたほか、体を縛られゴミ袋に入れられたまま数日間放置されるなどの凄惨(せいさん)な虐待を受けていたという。判決では、こうした虐待を受けたことが、稀華ちゃんを自宅に放置するなどの判断に「複雑に影響を及ぼしている」と認定した。

 虐待の連鎖──。親から虐待を受けた子は、成長すると今度は、自らが子どもに虐待をしてしまうことがあるとされる。米国の心理学者が1980年代に行った研究では、虐待が連鎖する割合は33%になる。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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