選挙戦のさなかの小川淳也にカメラを向ける。大島は小川を「被写体が51%で、友人が49%」と表現する。あくまでもジャーナリストの視線と姿勢を貫く大島だからこそ、小川の信頼も厚い(撮影/写真部・松永卓也)
選挙戦のさなかの小川淳也にカメラを向ける。大島は小川を「被写体が51%で、友人が49%」と表現する。あくまでもジャーナリストの視線と姿勢を貫く大島だからこそ、小川の信頼も厚い(撮影/写真部・松永卓也)

父は映画監督の大島渚
父の裁判は重荷となった

 どこに行き、何を撮るべきかを常に野性のカンのように嗅ぎ分けて動く。映画にも登場する、平井が街頭演説で「なぜ君」を「PR映画だ」と突然攻撃し始めた衝撃のシーンに居合わせたのも、そんな判断力のたまものだ。あのときはダッと走り出し、「平井さん! PR映画はないんじゃないですか!」と怒りをぶちまけた。だが10年来のコンビを組むプロデューサー・前田亜紀(45)は、あれは珍しいアクションだったという。

「大島さんは品がいいというか、節度があるというか、私なら閉められかけた扉にガッと足を突っ込んででも撮るけど、大島さんはしないんです」

 刈り込んだ短髪に鋭い眼光。一見、強面(こわもて)そうで、愉快で優しい気配りの人だ。面倒見がよく、冒頭のようにけっこう涙もろい。

 そして必ずドキュメンタリーには「自分」が出る。大島がそこにいて、対象と関わることでなにかが動く。テレビ時代から、ずっとそのスタイルを貫いてきた。大島は言う。

「あえて『出たがり』と言っているけれど、ドキュメンタリーがあたかも、何も介入していない事実のように見られることが恥ずかしいというのもある。カメラが入った時点ですでに『異常な状況』で、そこに作り手の解釈は必ず入っているから」

「なぜ君」「香川1区」の編集を担当した宮島亜紀(53)は多くのディレクターと付き合うなかで、大島の特殊さを実感してきた。

「まず本人が映像に出てくる人はほとんどいない。自分の声を聞くのも嫌がる人が多いんです、それにほとんどのディレクターは素材を自信なさげに持ってくる。『もっといい話が聞けたかも』って。でも大島さんにそれはない。ロケ運もよく、素材は少ないのに中身が濃い」

 それは「気づく力の高さ」だと宮島は言う。例えば、大島が17年に監督した「情熱大陸」歴史学者・磯田道史の回。電車で移動する磯田のワイシャツの襟に「M」のシールがついたままになっている。大島はいち早く気づき、それを撮影した。

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