(AERA 2022年1月24日号より)
(AERA 2022年1月24日号より)

 墨田区の産業医を兼務する西塚所長が、いち早く惨事ストレスに着目した背景には、東日本大震災の被災地支援で得られた教訓があるという。

「惨事ストレスに注意を払わないと、被災者を支援する側の人たちが継続して活動できなくなってしまうことを学びました。保健所職員の勤務に日々接し、新型コロナも災害と同じだと気づいたんです」

 海外でオミクロン株が流行し始めた昨年12月初め。職員は口には出さないが第5波の修羅場を思い起こし、「また同じことが繰り返されるのか」という重苦しいムードが職場を覆った。

「第6波に前向きに備えていこうという思いよりも、第6波が来なければいいという精神状態にある職員が多いように感じました。こういったストレスを放置すると、普段のパフォーマンスが発揮できなくなることを懸念しました」(西塚所長)

 第5波では、保健所のミスで自宅療養者と連絡が取れていないケースも全国で散見された。同様の事態が墨田区でも起こりかねない──。そう危惧し、惨事ストレスの講習会開催を決意したという。

「地域保健を支える保健所職員は地域住民や医療機関からの電話相談への対応、陽性者の入院・療養の調整、接触者の検査の調整や健康観察など、膨大かつ多様な業務を抱えています。にもかかわらず、医師や看護師ら医療関係者のストレスには注目が集まる一方、過重な負担がかかっている保健所職員に焦点を当てた実証研究は、これまでほとんど行われてきませんでした」

 こう嘆くのは、コロナ禍の保健所職員のストレス分析を行った東北大学災害科学国際研究所の研究グループの臼倉瞳助教だ。

■人格攻撃に襲われる

 調査は2020年9~11月、新型コロナに関する電話相談対応にあたった宮城県管轄の保健所職員らを対象に実施した。抑うつ症状、不安症状、心理的苦痛、心的外傷後ストレス反応(極度のストレスを体験した後に生じる心身の不調)、不眠症状、飲酒問題の各評価指標の基準点を元に、一定以上の問題を有する「ハイリスク者」を判定した。

 ハイリスク者は、不眠症状で69.6%、心理的苦痛で56.5%、心的外傷後ストレス反応で45.5%にのぼった。これらは、新型コロナの診療の最前線に従事する医療従事者に匹敵する割合の高さだという。

次のページ