東京都墨田区は、新型コロナウイルスの感染から回復した人たちに対して、後遺症の電話相談もしている/2021年6月3日(photo 東京都墨田区提供)
東京都墨田区は、新型コロナウイルスの感染から回復した人たちに対して、後遺症の電話相談もしている/2021年6月3日(photo 東京都墨田区提供)

 新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の流行で、国内は第6波に入った。思い起こされるのは第5波で起きた医療現場の混乱だ。保健所をはじめ、最前線に立つ人たちへの心のケアも欠かせない。AERA 2022年1月24日号から。

【苦情、攻撃…保健所職員が抱える「惨事ストレス」の例はこちら】

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 新型コロナウイルスの第5波のピークだった昨年8月から半年足らず。感染力の強いオミクロン株による第6波のピークが目前に迫る。

「第6波では、感染者や自宅療養者が過去最多になるのは間違いない、とみています。保健所が万全の態勢で臨むためにも、職員のストレスマネジメントが重要です」

 こう訴えるのは、東京都墨田区保健所の西塚至所長(51)だ。

 墨田区は昨年12月21日、新型コロナの対応にあたってきた保健所職員を対象に、「惨事ストレス」の講習会を開催した。西塚所長はこう振り返る。

「講習会に参加した保健師は、疲れやすかったり眠りが浅かったりしたのは、惨事ストレスによる当然の反応だったということが認識できるようになりました。『パンデミックが怖い』とか、『この業務につきたくない』というネガティブな思いも隠さず、周囲の職員と共有できそうだと話していました」

 惨事ストレスは、大規模災害などに直面した人や、惨事の様子を見聞きした人に起こる。交通事故や火災、事故、虐待などの暴力的行為などもきっかけになる。災害時は人命救助の最前線に立つ医療関係者や消防士、警察官のほか、報道関係者も被るリスクがあるとされる。

■重苦しさが職場を覆う

 墨田区は第6波にさしかかる直前のタイミングで講習会を開いた。西塚所長が言う。

「保健所の職員は第5波で長時間労働に加え、職業倫理に背くようなお願いをしなければならない立場に立たされました。このままだと、心の整理がつかずモヤモヤを抱えたまま、第6波に立ち向かう職員が多いのでは、と危惧したからです」

 墨田区保健所では約60人の常勤職員のうち、月の残業が80時間を超える職員が16人にのぼった。保健師は新型コロナの感染者に聞き取りを行う「積極的疫学調査」や、自宅療養者の健康観察にあたってきた。第5波では入院先を確保できず、自宅療養中に患者の症状が悪化するケースもあった。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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