障害児こそ医療が必要なのに、受診を断られるケースもあるという。適切な医療を受けるには、医療関係者や保護者たちの配慮や準備が重要になる。AERA 2022年1月17日号の記事で取り上げた。

「障害者歯科」もあるが、多くは平日の診療。学校を休んで行くのは、日常を崩すことがストレスになる自閉症者らには難しいという(写真:gettyimages)
「障害者歯科」もあるが、多くは平日の診療。学校を休んで行くのは、日常を崩すことがストレスになる自閉症者らには難しいという(写真:gettyimages)

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「あ~、うちではムリムリ」

 男性医師が明らかに嫌そうな顔を見せた。都内の女性(49)の長女(14)が幼児期に自宅で転び、おでこを切って、地元の「形成外科・皮膚科」クリニックに連れていったときのことだ。長女は知的な遅れのある自閉スペクトラム症。女性はこう振り返る。

「落ち着きがないからか、『こういう子は縫えない』と言われました。健常児だったらやってくれたと思いますが、障害児はまともな治療を受けさせてもらえないことが多いんです」

 眼科も診てもらえるところが見つからず、長女が11歳のときに初めて問題なく見えていることがわかった。いま一番困っているのは歯科。近所で評判のクリニックに長女を連れていったが、嫌々診療している感じが伝わってきた。器具を口に入れて少しでも体が動いたら、即終了。2、3週間に1度のペースで通っていたのに虫歯も見逃され、長女は歯の痛みで一時食事ができなくなった。別の歯科医院に相談すると、男性歯科医は「人手は足りないし、治療中に動いて口の中を切ったら責任を持てない」と本音を明かしてくれた。

■フリーアクセスなのに

 日本の医療制度の特徴の一つは、「フリーアクセス」。日本医師会のホームページには、「何の制限も受けずにどこの医療機関でも、どの医師にも自由に診てもらえて医療サービス(治療)が受けられる」とあるが、現実は、障害児はその特性から医療機関での診察や治療が難しく、受診を断られるケースもある。

 脳性まひの小学3年の娘(9)がいる横浜市の女性もこう話す。

「医師の中には差別的な考えの方が多くて閉口します。娘の友人は、眼科医に『こんな重度障害児に眼鏡をつくる意味あるんですか』と言われました」

 娘は脳性まひのアテトーゼ型のため、自分の意思によらない「不随意運動」があるが、理解のある医療機関は少ないという。歯科には「障害者歯科」があるので、歯並びが気になって受診したが、「障害児の中ではまだいいほうですから」と暗に矯正を断られ、通うのをやめた。

■時間とエネルギー必要

「障害のある子どもこそ、医療が必要です」

 と話すのは京都市の「まさみ眼科クリニック」院長、朴真紗美医師だ。眼科領域では障害児は健常児に比べて、網膜上にピントが合わない遠視や近視などの「屈折異常」が約5倍多く、はっきりと見えていない可能性が高いため、受診がより必要だと強調する。

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