トラやヒョウ、ライオンとのゲノムを比較した研究は数年前に出ているが、トラ個体間のゲノム解析の論文が2021年Molecular Biology and Evolutionに掲載された。インド国立生物科学センター (NCBS)、米スタンフォード大学を中心とした国際的なチームが4つの亜種の65頭のトラの全ゲノムを配列決定し、遺伝的多様性、近親交配の影響、変化を引き起こした可能性のある出来事、個体群動態、および地域適応について検討したのである。

インドとシベリアで違い

 4つの亜種のゲノムは、比較的最近である過去2万年以内に分岐しており、すべてのトラについてこの時期に個体数が大きく減ったことが示唆されるという。さらにインドのトラのゲノム変異は全体的に他のトラの亜種よりも大きいことが判明した。

 しかし、個体間の変異は小さく、これは近親交配の影響と考えられた。特に、インド北東部のトラは、他の個体群と大きな違いがあった。このような変化は、個体数の減少または小さく隔離された保護地域内での繁殖の結果を反映する。面白いことに、シベリアに住むアムールトラはインドのベンガルトラに比べて近親交配の程度が低く、分散した集団内で交配が行われているらしい。インドでは、居住するヒトがトラたちの自由な出会いや恋を邪魔しているのだろうか。

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早川智

早川智

早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に戦国武将を診る(朝日新聞出版)など

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