今では笑い話ですが、この時、私はとっさに断りました。足が不自由なのは仕方ないと認めつつも、知的な部分に関する問題を、まだ私自身が受け入れることができなかったのだと思います。

きっと歩きやすくなる

「今までドクターからOTが必要と言われたことはありません」

「そっか。でも、困ったら教えて? OTできちんと検査をしてビジョントレーニングを受ければ、きっと歩きやすくなるよ。それに日本には漢字があるから、早いうちに空間を捉えられるようにしないと書くのが大変になるかもしれない。就学を見越して、3歳頃から始めた方が効果があるよ」

 その日からしばらく考えました。就学なんて、幼稚園の入園すらどうなるかわからないのに、まだまだ先の話だよ……と思いつつも、PTさんに言われた言葉がずっと残っていました。

 夫は私とは逆に、その言葉を真っすぐに受け止めたようでした。

「そんなに嫌なら、知的面じゃなくて身体の位置を覚えるためだと思えばいいよ。実際、知的に遅れはなかったんだからそれでいいじゃん。一緒に行くから検査を受けてみよう? 大丈夫。オレ、パズル得意だから、たぶんコウもそれを受け継いでるよ(笑)」

生活しやすい力をつける

 まずは眼科で乱視がないかを確認してもらい、OTの発達検査を受けることになりました。結果はその場で出ました。

・視野が顔の幅程度しかない

・正方形がひし形に歪んで見えている可能性がある

・斜めの線をほとんど認識していない

  結果は空間認知に課題があることを示していましたが、どこかでホッとしている自分もいました。もう息子が手先を追わないことに悩む必要がなくなり、コウが生活しやすくなるように力を付けられるのだと思うことができました。

「これだけコミュニケーションが取れるから、きっと改善すると思いますよ」という、作業療法士さんの笑顔に救われました。

 OTのリハビリ室は、スポーツジムのような理学療法室とは違い、学習塾のような雰囲気でした。まず、すべてのピースが三角形とひし形でできているパズルを使い、大きな正方形を作りました。実物大の絵の見本があり、その上に同じ形のものを置いていくのですが、息子は全くできません。特にピースをまわしてはめ込む作業が難しそうでした。

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目だけ動かす練習をしたら