江利川さんの長男が幼稚園の年長の時に描いたチャボの絵。いまも部屋に飾ってある/江利川さん提供
江利川さんの長男が幼稚園の年長の時に描いたチャボの絵。いまも部屋に飾ってある/江利川さん提供

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害を持つ子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出会った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

 脳性まひの子どもは、手足や体幹など運動機能に障害があります。でも、実はもうひとつ、あまり知られていない合併症として『空間認知』が苦手な子どもがいることがわかっています。私が運営しているNPOでも空間認知の困りごとの相談は非常に多く、専門の先生をお招きしたワークショップは、毎回すぐに満席になるほど需要があります。今回は空間認知についてのお話です。

絵を描くのが苦手だった

 空間認知は空間知覚とも呼ばれ、三次元の立体や距離感を把握する能力のことです。この部分が苦手だと、目と手を同時に動かしたり頭の中で思い描いたものを形にしたりすることが難しいため、積み木を積めない、絵が描けない、折り紙やパズルができない、学齢期以降では板書や数学の図形問題などに影響が出ると言われています。

 我が家の息子も、幼児期は絵を描くことが苦手でした。

私 「これ、何を描いたの?」

息子「くるま」

私 「これは?」

息子「ママのお顔」

 3歳直前になってもなぐり描きをしているだけで、次女の1歳半頃と同じ状態でした。洋服のボタンをとめる時に前を見ていたり、引き出しの中の物を手探りで取ったり、音楽教室でエレクトーンを習い始めた時には鍵盤を見ずに感覚で音を拾ったりと、指先を目で追わないことがとても不思議でした。

「作業療法を受けてみない?」

 実はこの頃に受けた発達検査でも、全体的な数値は悪くないのに、先生の真似をして積み木が積めない、円が描けないなど、特定の部分だけが極端にできないことが気がかりでした。検査結果は正常範囲だったのですんなり終了しましたが、素直には喜べませんでした。

 ほぼ同時期に、PT(理学療法士)さんから、「コウちゃん、OT(作業療法)を受けてみない?」と言われました。

「OTと言っても、手のリハビリではなくて、『空間認知』のビジョントレーニングね。もしかするとコウちゃんは、自分の身体や背中の位置がよくわからないために、バランスを崩したり、転ぶ時に手が出なかったり、後頭部から倒れたりするのかもしれない」

 空間認知は今後、字を書いたり書き写したりするなど小学校の授業で行うことにつながる。PTとは無関係に見えても、ここをトレーニングすると身体が使いやすくなるとのことでした。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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