副業のマッチングサービスは他にもいくつか存在するが、まずはディスカッションで募集者と応募者がコミュニケーションを深めるのが「サンカク」の特徴だという。現在、安倍さんは週1回のペースで夜にオンライン定例会議に参加し、同社の担当者や他の副業者とともにアイデアを煮詰めている最中だ。
「本業のキャリアが生かせるし、マーケティングや販売戦略も絡んでくるので、新たな学びも得られます。金属熱処理は一般的になじみの薄い技術なので、もっと広く知ってもらいたいとの思いも強まりました」(同)
メディア関連企業で営業企画部に属する男性(20代)も、「サンカク」でもう一つの職場を探した。
「純粋に知見を広げたいという思いが出発点でした。本業で取り扱う商材や市場は限定されてきます。本業における日頃の業務を俯瞰(ふかん)して汎用(はんよう)化するうえで、違う業界に関わることが有益だと思いました」(男性)
また、本業で接するのはもっぱら都市部の企業だったので、地方の企業にも関心があったという。さらに、前職で製造業の営業企画を経験していたことから、秋田県男鹿市の山王電機製作所を副業先に選んだ。
「トイレ用非接触節水装置の拡販活動を担っています。節水機能はもとより、手でレバーを引かなくても自動で水を流せるので、昨今のコロナ感染予防対策にもつながります。しかも後付けが可能だからニーズも拡大中です。今までは販売を代理店に依存してきたので、今回のアウトバウンド(副業者への業務委託)に期待を寄せているようです」(同)
前出の古賀さんが言う。
「サンカクの登録者は、20~40代まで各世代にほぼ均等分布しています。その中で『ふるさと副業』の実践者は、年齢がやや高めで相応のキャリアを積む人が多い印象を受けます」
■スキルより共感が大事
リクルートが実施した「兼業・副業に関する動向調査(2020)」では、副業への意欲は高いことがわかった。調査では副収入が得られたことに最も効果を実感したとの結果が出たが、「ふるさと副業」ではやりがいを重視する傾向がうかがえる。
一方で多くの地方企業が求めるのは、新規事業の立ち上げやマーケティング、eコマースなどに知見のある人材だ。「最近は特にデジタルマーケティングやアプリ開発に強い人材を切望している」(古賀さん)という。前出の安倍さんは、こう訴える。
「スキル以上に大事なのは“思い”です。スキルがあっても、副業先の事業に共感できないと本末転倒です。やる気があれば、勉強しながら取り組むことも可能です」
(経済ジャーナリスト・大西洋平)
※AERA 2021年12月27日号